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2023年3月15日 第649号

機能しない住宅セーフティネット
低所得者が入れる住宅は全国で298戸
登録物件東京で5万戸に
家賃低廉化補助実施は5自治体

 改正住宅セーフティネット法が2017年10月に施行され、5年が経過した。新たな住宅セーフティネット制度は、(1)住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度、(2)登録住宅の改修・入居への経済的支援、(3)住宅確保要配慮者のマッチング・入居支援の3本柱とされているが、5年経過後も同制度は全く機能していない。

 (1)の高齢者や障が者など要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録は2月4日現在、全国で83万戸を超え、東京は4万9796戸と当初の目標を大幅に超えた。しかし、実態は賃貸住宅大手の大東建託の物件が約95%を占め、ビレッジハウスが約3%を占める。
 登録物件のビレッジハウス芝浦の3DKの60平方メートルの物件の家賃は月額20万3千円、新宿の木造共同住宅の40平方メートルの1R物件が家賃月額13万5千円と高額な家賃の物件が多い。全て家賃保証に加入することが条件で、保証会社の審査に落ちると入居できない。
 (2)の経済的支援(家賃低廉化補助)のある要配慮者専用住宅登録物件を調べても見当たらない。というのも、自治体が家賃低廉化補助を行っている自治体は東京では墨田区、世田谷区、豊島区、練馬区、八王子市の5自治体しかなく、全国でも2021年度の実績で僅か298戸しかない。
 (3)の要配慮者への入居支援については、居住支援協議会や居住支援法人への補助金も支給され(十分ではない)、居住支援活動は活発になった。

高齢者残置物モデル契約の解説セミナー

単身高齢者が対象に

 国土交通省主管の社会空間研究所主催による「残置物の処理等に関するモデル契約条項の解説セミナー」がオンラインで開催された。賃貸住宅に住む単身高齢者の急増が予想される中で、単身高齢者への賃貸人の入居拒否感が強く、単身高齢者の居住の安定を図るため国交省は賃借人の死亡後に居室内に残された家財(残置物)を円滑に処理できるように(1)賃貸借契約の解除、(2)残置物処理に関する委任契約のひな型を「モデル契約条項」として発表している。
 (1)は賃借人が死亡した場合に、賃貸借契約を終了させるための代理権を受任者に授与する委任契約であり、(2)は賃貸借契約終了後に残置物を貸室から搬出して廃棄する等の事務を委任する準委任契約からなる。賃借人は賃貸借契約を締結する際に2つの委任契約を受任者との間で作成する。受任者には推定相続人、居住支援法人、管理業者等の第三者が想定されている。賃借人に推定相続人がいれば問題はないが、身寄りのない高齢者の場合に管理業者などと受任契約を結ぶには、高額な費用が必要となる。60歳以上の単身高齢者が対象とされている。


保証金返還特約は有効か管理会社が返還を拒否
家主は外国人で連絡取れず原状回復費用も請求
練馬区

 練馬区内に店舗を賃借していた尾木さん(仮名)は、合意解約し立ち合いで原状回復は必要ないと言われたにもかかわらず、後日多額の原状回復費用を請求する通知が届いた。しかも預け入れてある保証金は返還すると特約があるが、全額償却なので返還できないと主張している。
 この請求をしているのは管理会社の不動産屋で、家主は海外国籍の方だ。海外の家主に通知するか尾木さんは悩んでいる。困った尾木さんは西武百貨店の相談会を訪ねた。現在までに家主は4回変更になっている。
 契約書に保証金返還特約の記載があり、管理会社も確認できるはずだが、原本が見当たらないので一方的な借家人の請求には応じられないと強硬な態度だ。
 保証金が高額なため原状回復費用はそれで相殺しても構わない、残りを返還してほしいと譲歩しても譲らず交渉は進展していない。
 組合は原状回復費用を支払わず保証金返還を諦めればそれ以後請求はしない可能性もあるとアドバイスした。
 尾木さんは直接海外の家主に通知してみるかどうかも含め今一度検討してみますと言って帰路についた