借地権譲渡承諾前に所有権移転登記すると無断譲渡で契約解除事由に当る
借地上の建物の所有権移転登記の後にされた賃借権譲渡許可の申立てが不適法とされた事例
借地上の建物を第三者に譲渡する場合、地主の承諾が必要となりますが、地主が承諾しないとき、これに代わる裁判所の許可を求めることができます(借地非訟手続の一つです)。
この手続について、借地借家法19条1項は、「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合」に裁判所は許可を与えることができるとしています。
今回紹介する大阪高裁令和6年6月6日決定は、借地上の建物が売却され、所有権移転登記手続も完了した後に、許可を求めた事案について、許可の申立てを不適法なものとして却下しました。
本決定は、上記の条文の文言ほか、この制度の趣旨が賃借権の無断譲渡による紛争の予防にあることを理由に、借地借家法19条1項の許可の申立ては、建物の譲渡の前にされる必要があるとしました。
その上で、本件の申立ては、すでに所有権移転登記の後にされたものであり、建物を譲渡した後にされたものであるから、不適法であるとしました。
この点、実務上は、賃借権譲渡許可の申立ては、必ずしも売買契約前に行う必要はなく、契約締結後であっても可能であるとされています。契約締結だけでは「譲渡」にはあたらないという解釈です。
しかし、本決定が述べるように、所有権移転登記までしてしまうと「譲渡」にあたり、申立てができないということになります。申立てができないということは、無断譲渡になり解除事由になるため、所有権移転登記の前か後で、法的地位が大きく異なることになります。このように賃借権譲渡にあたっては実務上注意が必要となります。
(弁護士・瀬川宏貴)