法定更新された場合には契約書に基づく更新料支払義務は発生しない
今回は、法定更新における更新料発生の有無が争われた事例(東京地方裁判所令和6年2月16日判決)を紹介いたします。
本事例は、賃貸人(原告)が、賃借人(被告)に対して、建物賃貸借契約の法定更新に基づく更新料88万円の支払を求めた訴訟で、争点は法定更新においても契約書に基づく更新料支払義務が発生するか否かにあります。
当事者間において、平成26年に賃料月額80万円(税別)で本件建物の賃貸借契約を締結し、同契約書第4条では、本契約の期間と更新につき、「1 賃貸借期間は、平成26年1月27日平成29年1月26日までの満3ヶ年とする。ただし、期間満了前迄に甲(賃貸人)乙(賃借人)合議の上、更新手続きを経て更新することができる。その場合乙は期日前に、甲、又は仲介不動産にその更新の意志を申し出る事とし、更新に関する条件を承諾履行する事により更新できる事とする。2 賃貸借期間満了後、この契約を更新するときは、乙は甲に対して新賃料1ヶ月分(別途消費税)を更新料として甲に支払うものとする。」と定められていました。
平成29年の更新に際しては、合意によって更新がなされ、賃借人は更新料86万4000円を支払っていました。その次の契約期間満了に際しては、賃貸人から更新拒絶通知がなく、更新契約もされませんでしたので、令和2年1月に借地借家法26条1項に基づき法定更新がなされました。この点に関し、賃貸人は令和4年8月、賃借人に更新料88万円の支払を求めましたが、賃借人はこれを拒否し、賃貸人が訴訟提起するに至りました。
賃貸人は、契約書における「更新」という文言が合意更新に限られず法定更新も含むと解すべきであり、また、令和2年10月に賃借人代理人が送信した書面に「更新料は家賃支援給付金受給後に支払う」と記載されていたことから、当事者間には法定更新においても更新料支払義務があるとの認識が共有されていたと主張しました。
これに対し、賃借人は、契約条項が更新料の支払を一義的・具体的に定めていない以上、法定更新によって当然に更新料支払義務が発生するとはいえず、更新料はあくまで合意更新に限って定められたものであると反論した。
裁判所は、更新料は特約によって初めて発生する債務であるため、①債務の明確性の観点から、更新料条項が一義的かつ具体的に定められていることが必要、②本件契約書の構成・文言から、4条2項の「更新」は、前段の合意更新(4条1項)に限定されていると解するのが自然であり、法定更新を含むとは一義的にいえない、また、③賃借人代理人の送信した書面の記載も、法定更新による更新料支払義務の明確な承認とはいえず、後に争っている事情からも共通認識があったとは認められないことから、法定更新に伴う更新料支払義務の合意は成立していないと判断し、賃借人には更新料の支払義務はなく、賃貸人の請求を棄却する判決が言い渡されました。
この判決は、法定更新における更新料の発生には、契約条項の明確性と当事者の具体的合意が必要であるという原則を再確認したものであり、不明確な条文に基づく請求が否定された点で、とても意義のある判断といえます。
〈弁護士 穐吉慶一〉