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■お知らせ
 

資料・小泉総理大臣宛公開質問状

住宅金融公庫の独立行政法人への移行も含めた廃止について


2002年1月19日

日本国内閣総理大臣
小泉 純一郎 殿


〒115−0045
東京都北区赤羽2−2−2
赤羽スカイハイツ204号室
北区借地借家人組合

砂押 英文








拝啓

 時下益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
 私どもはその名のとおり東京都北区内に居住する借地人と借家人の互助を主たる目的とした組織でありますが、現在、総理が推進しておられる特殊法人の整理合理化計画の中の住宅金融公庫(以下、公庫と略)の独立行政法人への移行も含めた廃止について、是非ともお伺いしたいことがあり、本書をお送りした次第です。
 なお、本書は公開質問状と致しますので、ご了承下さい。

 私どもでは公庫の廃止は大きくいって次の三つの問題を引き起こすと考えており、この点についての総理のお考えをお伺いします。

1.融資金利の問題
2.建設される住宅の品質の問題
3.借地人の居宅建て替えの際の所謂「承諾料」の問題

 まず1の融資金利の問題ですが、総理は国会での答弁などで、銀行などの民間金融機関でも公庫並の金利での融資をおこなうことは可能であると述べておられますが、この具体的な根拠はいかなるものでしょうか。
 確かに昨今では金利自体は、年利1%台といった公庫と比較してそう遜色の無い、場合によっては公庫よりも低金利での住宅建設のための融資をおこなう銀行はあります。しかし、その期間は2、3年程度であり、多くの住宅ローンの特徴である十数年あるいは数十年という長期における低金利を保障する住宅ローンを提供する民間金融機関は皆無であります。
 住宅ローンの特徴には前述した返済期間が長期にわたることに加えて、融資金額自体が多くの場合1,000万円単位と一般家庭にとっては莫大な額になることがありますが、これだけの金額を長期間にわたって、しかも一般家庭でも充分に負担し得る水準の金利での融資をおこなう金融機関は、私どもの知り得る限りでは公庫以外には存在しません。
 この貸出金利の点につきましては、三和総合研究所の研究員である森永卓郎氏も私どもと同様の指摘をしておられますが、民間金融機関で公庫と同等あるいはそれ以上の貸出条件での融資をおこなうことには無理があると言わざるを得ません。森永氏の所属する三和総合研究所が公庫廃止で大きなビジネスチャンスを得られる大手都市銀行のひとつであるUFJ銀行系列であることを考えれば、この指摘にはかなりの説得力があります。
 民間金融機関でも公庫並の条件での融資が可能であるとご主張されるのであれば、是非ともその根拠とそれを実現した民間金融機関をお示し頂きたいと存じます。

 次に2の住宅の品質の問題です。
 昨今、基礎工事がいい加減であるなどの構造上の問題を抱えた欠陥住宅の問題が指摘されることが少なくありませんが、これらの問題の多くは建築以前、建築中、そして建築後の審査を適宜実施することによって回避できるものであります。そして現実問題として、その審査の中でも建設資金を融資した金融機関のおこなう審査の果たす役割には大なるものがあります。
 さて、公庫の融資とは言うなれば国営事業でありますので、その審査は各種の建築基準などの法令に対し相当程度忠実なものであり、結果として公庫からの融資を受けて建設される住宅はそれらの基準を満足させた良質なものとなります。
 しかし、私どもの保有するデータによれば、困ったことに民間金融機関のこの部分の審査は公庫よりも甘く、住宅の欠陥といった問題を見逃しやすい傾向が明らかになっております。
 このまま住宅ローンは一部の例外を残すにしても、全てあるいは大多数のものは民間金融機関でおこなうこととするのであれば、こうした問題が一層拡大することが危惧されますが、この点についてはいかがお考えでしょうか。

 最後に3の「承諾料」の問題について伺います。
 借地人が居宅を建て替える際には地主に承諾料を支払う必要があり、その金額については路線価に対してある一定の割合とすることについては借地人、地主双方の合意がほぼ成立した観もありますが、依然として意見が対立することも決して少なくなく、時として訴訟に至ることもあります。
 そうした場合、借地人は裁判所に非訟手続を申し立て、裁判所に適切妥当な承諾料の額を決定して頂くことになりますが、多くの場合、その金額は地主側の希望額よりも低いものです。そして、その際に裁判所から出される建築許可の決定書をもって地主の承諾書に代替する物と認めるのは公庫のみであります。
 しかし、民間金融機関では裁判所の決定書があろうとも、それを地主の承諾書の代替物とは認めず、あくまでも地主の承諾書が無ければ、他の条件がどれほど優良であろうとも決して融資をおこないません。
 さらに言えば、地主が承諾書を書くか否かは地主側の自由意志であり、これを裁判などで強制させることには無理があります。
 してみれば、現状のまま公庫を廃止すれば、現実問題として借地人は居宅が老朽化するなどして建て替えの必要が生じた場合、地主が建て替えを承諾するのは稀である以上、融資が受けられず建て替えは事実上不可能になります。
 この点について総理はいかがお考えなのかお伺い致します。

 現在の憲法では、最低限度という制限はあるものの全国民に健康で文化的な生活を送る権利があることを認めておりますが、この憲法の規定を持ち出すまでもなく、かかる権利は現代社会において万人に認められた普遍的な権利であります。そして、その中でも住環境は最も基本的なもののひとつであります。
 しかしながら、現在の我が国では依然として良好な住環境を享受できる者は決して多くはなく、住環境のより一層の改善が希求されております。
 この点につきましては、私どもも含めた借地借家人組合の組織が日本全国各地に結成され、活発な活動していることが何よりの証左となるでしょう。
 しかるに、総理の目指しておられる公庫廃止は、現在の住環境を改善するどころか、借地人や借家人も含めた社会的弱者の住環境を悪化させることになると言わざるを得ません。
 既に本書で述べた三つの問題に限っても、融資を受ける側にとって公庫よりも有利な条件で融資をおこなう民間金融機関は現存せず、今後そうした民間金融機関が現れる保障もありません。
 公庫の廃止を目指されることについては様々な事情があろうかと存じますが、民間金融機関が充分に公庫の代役を務めることができるという明確な保障が無い以上は、これを容認することは到底できないのです。
 それとも総理は、私どものような者にはまともな住宅を持つ権利も資格も無いと言われるのでしょうか。
 総理のお考えを重ねてお伺い致します。

 なお、冒頭で申し上げましたように、本書は公開質問状でありますので、本書およびその回答は当組合の加盟する借地借家人組合連合会の発行する新聞などの媒体に掲載するなどの方法で公開することがあることを予めおことわり致します。
 また、当方へのご返答は書面を希望致しますが、首相官邸のインターネットホームページに掲示されるなどの公開の形でも結構です。

 納得できるご返事を頂けることを祈念しつつ本書の締め括りとします。

敬具

 


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