過去のページ
東京借地借家人新聞


2010年6月15日
第519号

更新料問題学習会開催

東借連と住まいの貧困ネットが共催

契約書に明確な規定がなければ 更新料支払義務なし

規定が消費者契約法違反なら無効

更新料問題学習会で講演する西田 穣弁護士
更新料問題学習会で講演する西田 穣弁護士

 東京借地借家人組合連合会と住まいの貧困に取り組むネットワーク共催による「借地・借家問題学習会」が5月29日午後1時30分から豊島区東部区民事務所において63名の参加で開催された。
 東借連の佐藤富美男会長より開会の挨拶があり、「更新料問題は借地借家人にとって大変関心の高い問題であり、大いに学習し更新料をなくしていこう」と訴えた。
 学習会は、東借連常任弁護団の西田穣弁護士より「借地・借家の更新料をめぐる裁判例」と題して約1時間にわたり講演が行なわれた。今回初めてプロジェクターを使って講演内容をスクリーンに映しながら説明がされた。

原則的に支払い義務はなし

 講演では、更新料について原則的には支払い義務はない。その根拠として(1)そもそも法律上の根拠がない。(2)法律上、法定更新があり、法定更新を選択した場合には、更新料支払義務を認めることは、借地借家人にとって不利なもので法の趣旨になじまない。(3)特に借地の場合、契約書に記載がなく、記載があってもその基準・金額等は明示がない場合が多く、多額の更新料を支払うことによって得られる借地人のメリットはない。
 一方、裁判では更新料の有効性が認められた裁判例の特徴として、賃貸借期間が短く、明確な規定のある建物賃貸借事例が多いこと、更新料不払い以外に信頼関係に問題と思われる事情がある場合が多く、賃貸人からの連絡も無視しないようにと指摘された。
 次に、契約書で更新料を支払う明確な規定があっても消費者契約法第10条に違反して無効となるかどうか、有効とした京都地裁平成20年1月30日判決と無効とした大阪高裁平成21年8月27日判決の違いが説明された。

契約書明記があれば慎重に

 今後の取組みについて、西田弁護士は、契約書に更新料支払義務が明記され、家賃の1ヶ月〜2ヶ月程度の場合には最高裁が無効と判断するかどうか流動的であり、単なる更新料の請求だけであれば争ってみる必要があるが、債務不履行に基づく明渡し請求になる場合であれば本人の生活状況などを考慮して慎重に決定することが必要であると指摘。また、契約書に更新料支払義務の金額・基準等の明示がなければ更新料の支払義務がないので法定更新を主張することが強調された。
 次に、更新料問題の事例報告では、城北借組の浅川史教さんより法定更新中に借地権の相続で更新料を請求され、粘り強く交渉し撤回させた経験が報告された。この他、荒川借組の生駒事務局長と城北借組の佐藤事務局長より、賃貸マンション等の事例が報告された。質疑応答の後、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人の稲葉剛さんの閉会の挨拶で終了した。




 

更新料請求で頑張ってる

練馬区桜台の川上さん

不利な契約書作成拒否

更新料支払特約の削除要求

川上さんが住む練馬区桜台附近
川上さんが住む練馬区桜台附近

 練馬区桜台に住む川上さん(仮名)は、5年前に相続した地主から更新期間が満了になるので契約書を作成し、更新料を支払って更新するようにとの通知をもらった。
 組合から「更新の時期、更新料の支払いについての法的な根拠などを示す事を求める」文書を送ったところ地主の回答がなかった。その後、契約書が存在しないのでという理由で、一方的に増改築の承諾、更新料の支払い特約などの項目が入った契約書を送りつけてきた。契約書については組合とも相談し、増改築承諾や更新料の支払い特約などが一切ないものを作成したところ、また回答がなくなってしまった。
 その後、毎年5月(契約期間満了の月)になるとさまざまな文書が地主から送られてきた。今年の5月には「屋上に用途不明の建物を設置している。土地賃貸借契約で約定した使用方法に反するので速やかに撤去せよ」と通知してきた。組合と相談し、そもそも本契約は契約書が存在しないものであり、増改築の承諾が必要のないと通知を出した。川上さんは「地主は嫌がらせを言って更新料か承諾料が欲しいのではないか。そんなことには負けないで頑張ります」と話した。




 

組合の催物とお知らせ

■城北借組「西武デパート相談会」
 7月14日(水)・15日(木)午前11時〜午後5時(午後1時〜2時昼食休憩)まで、西武デパート7階お客様相談室。
 「無料法律相談会」
 7月16日(金)午後2時から組合事務所。相談者は要予約。連絡・(3982)7654。
■多摩借組「借地借家問題市民セミナー」
 6月26日(土)午後6時半から武蔵野公会堂。
 「定例法律相談会」
 7月3日(土)午後1時30分から組合事務所。担当・山口真美弁護士。相談者は要予約・連絡・042(526)1094。
■江東借組「法律相談」
  毎月第2水曜日午後6時から大島総合区民センター。
■葛飾借組「定例相談」
 毎週水・金曜日の午前10時から組合事務所。連絡・(3608)2251。
■足立借組「定例相談」
 毎月第2日曜日午後1時から2時、組合事務所。連絡(3882)0055。
■荒川借組「夜間相談会」
 毎月第1・第3水曜日午後7時から組合事務所。
 「法律相談」
 毎月第3金曜日の午後7時から組合事務所。相談者は要予約。連絡・(3801)8697。
■北借組「法律相談」
 毎月第1・第3水曜日午後7時から赤羽会館。相談者は要予約。連絡・(3908)7270。
■大田借組「常任理事会」
 7月10日(土)午後6時組合事務所。連絡・(3735)8481。




【判例紹介】

管理会社に委任した家主にも不法な追い出し行為責任が認められた事例

 建物の管理会社による追い出し行為について不法行為責任を認めるとともに、賃貸借契約の解除を認める確定判決を得ていながら、公権力による明渡しを実行せず、原告の居住を黙認した上、個別に管理会社に滞納家賃の取立等を委任した家主にも、追い出し行為に関する責任が認められるとした事例(姫路簡裁平成21年12月22日判決)
 【事案の概要】
 A(借主)とB(貸主)は平成15年にアパートの賃貸借契約を締結、C社はBとの間で管理契約を締結し,賃借人に対する家賃等の集金等を委託していた。平成18年、Aの家賃滞納によりBは賃貸借契約を解除する訴えを起こし、同年末、契約解除を認める判決が確定するも、Aはその後も賃料を滞納しつつも本件建物に居住し続け、一方、家主Bは、賃料相当損害金を受領し続けていた。
 平成20年6月、C社の社員DがA宅に赴き、張り紙を貼ったり、家賃督促のハガキを入れたり、ドアの鍵部分にカバーを掛けたりした。その後、Aが一部家賃を入金したことによりC社は鍵を開けた。平成21年4月末、DがA宅に赴き、張り紙を貼ったり、家賃督促のハガキを入れたり、同年5月、ドアの鍵部分にカバーを掛けたりした。また後日、DがA宅に赴き、ドアに「荷物は全て出しました」との張り紙を貼った。
 【判旨】
 Aに恒常的な賃料あるいは賃料相当損害金の不払が存在したとはいえ、上記取立行為は社会的行為として許されるものではなく、何ら言い訳のできない不法行為といえる。
 家主Bは、本件賃貸借契約について、裁判所の確定判決により債務名義を得ているにもかかわらず、公権力による明渡しを実行せず、Aの居住を黙認した上、Aの滞納家賃の取立等のため、個別にC社にそれを委任し、その結果、C社の社員Dが、Aに対し不法行為(取立行為)を行ったのであるから、Bに不法行為責任が存することは明らかである。
 【寸評】
 管理会社による滞納家賃の取立行為(追い出し行為)が許容される限度を超えたために不法行為責任が認められた事例であるが、明け渡しを認める確定判決を得ておきながら実力行使による追出しを依頼した家主にも同様の責任を認めた(慰謝料額は36万5000円)。近時の悪質な滞納家賃の取立、追い出し行為に警鐘を鳴らす事例として紹介する。
(弁護士 松田耕平)


毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可

 ← インデックスへ