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東京借地借家人新聞


2008年9月15日
第498号

居住貧困を加速させる定期借家

住宅セーフティネットの公営住宅にも活用促す
礼金・敷金ゼロ物件の罠
短期の定借物件で居住が不安定に

インターネットに掲載されているゼロ・ゼロ物件
インターネットに掲載されている
ゼロ・ゼロ物件

 定期借家制度が2000年3月に導入されて8年が経過するが、民間賃貸住宅市場で依然として普及されていない。公営住宅や公社住宅などでは、条件つきながら導入される一方で、非正規雇用労働者などワーキングプアをターゲットにした礼金・敷金ゼロの1年間の短期の定期借家物件が増加傾向にあり、消費生活センターには家賃が相場より高いために家賃を滞納して退去を迫られる相談が増加しているという。

■制度の内容知らない借家人
 定期借家制度について国土交通省が平成19年3月に行なった調査によると、新規契約に占める割合は普通借家契約95%に対し、定期借家契約は僅かに5%と民間の賃貸住宅市場においては全く活用されていない。
 「定期借家制度を活用しない理由」として、「賃借人にとって魅力に乏しく、空家になる可能性がある」45・8%、「普通借家契約に特段の不都合はないため」44・4%、「審査が厳格であれば、普通借家でもトラブルを防ぐことが可能であるため」22・8%と、賃貸物件を仲介している不動産業者からも定期借家制度は敬遠されている。
 「定期借家制度の認知状況」では、入居者の中で「内容の全部又は一部知っていた」33%、「制度があることは知っていた」34%、「全く知らなかった」33%で、制度の内容も知らない入居者が過半数を超えている。

■定期借家が貧困ビジネスに
 多くの借家人が定期借家制度の内容について知らない状況の中で、アパート入居の初期費用を支払えないワーキングプアが短期の定期賃貸借契約(1年間)の礼金・敷金ゼロの「ゼロゼロ」物件をインターネットで探して契約するケースが増えている。実際には狭い1K物件で相場より家賃が高く、結局家賃を支払うのが困難で、退去せざるを得ない人も少なくないという。
 契約について知識の無い借家人に不当な契約条項を押し付けられる場合が多く、最近問題となった借地借家法の適用を認めない「施設付鍵利用契約」であったり、家賃を1日でも滞納すると部屋の鍵を交換し、再入室するのに高額な違約金を取られたという相談が組合にも寄せられている。
 全国消費生活協会の消費生活相談員の玉城恵子氏は「契約自由の原則があるが、非正規雇用労働者など経済的弱者は、居住権の制限された物権を選ばざるを得ない」と嘆く。
 定期借家制度を導入する目的として「良質な賃貸住宅の供給が増える」、「家賃が安くなり借主が借りやすくなる」が大義名分だったはずだが、大義そのものが怪しくなってきた。このまま放置しておくと住宅弱者が貧困ビジネスの餌食になるばかりだ。

■公営住宅等に活用がすすむ
 住宅困窮者のセーフティネットといわれる公営住宅についても、国土交通省は昨年9月の住宅セーフティネット基本方針で「公営住宅における定期借家制度(期限付き入居)の活用を図ることは必要である」と定め、定期借家制度の導入の方針を決めている。東京都では40歳以下の若年ファミリーを対象に期間10年の定期借家制度がすでに導入されている。住宅供給公社についても建替え対象の住宅については建替えの1年前までの期間の定期借家契約で募集し入居させている。
 機構住宅(公団住宅)については、「規制改革3カ年計画」の閣議決定で「定期借家制度を幅広く導入する」ことが決まり、機構住宅にも新規契約等に全面的に導入することが検討されようとしている。

■法改悪の機会を窺う定借協
 不動産業界等で組織する定期借家推進協議会は、定期借家制度の見直しについて(1)家主の事前説明義務の廃止、(2)普通借家への切り替えの容認、(3)中途解約権の任意規定化以上3点の法改正に向けて自民党と連携し、国会への法案上程の機会を窺っている。東借連と全借連では、公団・公社・公営住宅の自治会や自由法曹団と共闘を強め、国会や政党への運動を継続して取組んでいる。定期借家制度の問題点や危険性を普及させる運動が急務となっている。




借地権譲渡で頑張った
大田区久が原の依田さん

供託中に借地非訟手続き申立てで地主が借地権買取る

大田区久が原の依田さん宅
大田区久が原の依田さん宅

 大田区久が原2丁目に宅地33・45坪を賃借していた依田さんは、更新料支払いを拒否したところ、昭和63年10月分地代が受領拒否されて供託することになった。年末に地主の友人という弁護士から「世間並みの更新料」を支払わないとは何事かと、法的手続き取る旨の書面が届き組合に相談のうえ入会した。
 直ちに、借地法に基づき法定更新になっていることを指摘し、重ねて更新料の支払いを拒否した。さらに受領拒否により地代を供託していることを地主代理人弁護士に通告した。それから15年依田さんが死去し、奥さんが相続して地代の供託を継続した。奥さんも2年前から体調を崩し入退院を繰り返すようになり、昨年には養老の老人ホームに入ることになった。その経費捻出のために借地権を処分したいと組合に相談された。
 約20年及ぶ地代供託の状況で地主の承諾は困難と考えつつ、組合知り合いの不動産業者を介しての地主交渉は不調。同業者を介して借地権の購入者を得て、借地非訟手続を行った結果、地主が借地権を買い取ることになり、裁判所の鑑定のための現地調査が行われて、今年5月和解が成立した。
 和解まで約7カ月経過したがこれまでの経費を差し引き手にした金額に、依田さんの奥さんは「安堵しています」と老人ホームから丁寧な挨拶があった。




 

更新料拒否し法定更新主張
立川市錦町

 立川市錦町で36坪を借地している渡辺さんは、今年の6月末に20年の契約が切れ、地主から更新するなら更新料として185万円を支払うよう請求された。渡辺さんは体も弱く今回はとても更新料を支払うお金の余裕もなく困っていたら、たまたま組合事務所の前を通り過ぎ看板を見て組合に相談した。組合役員から「更新料を払わなくても法定更新すれば前契約と同一条件で更新ができる」と説明を受け、渡辺さんも安心した。地主と直接交渉することはやめて、地主に組合と話し合うよう連絡した。7月末に組合事務所に地主とコンサルタントが来たが、組合では更新料をキッパリと拒否した。




【借地借家相談室】

賃貸人が死亡し複数の相続人がいる場合は遺産分割確定まで供託をする

(問)先日、賃貸人が死亡した。相続が完了していないのに長男から自分の銀行口座に賃料の全額を振込むよう指示された。その通り支払った方がよいのか。

(答) 相続人間で賃貸物件の遺産分割を巡って争いがある場合に、各相続人がそれぞれ単独で賃料等を請求することがある。賃借人の対応によっては「二重払い」、「債務不履行による契約解除」が惹起される。
 最高裁平成17年9月8日判決で「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にかさのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない」と判示した。
 即ち相続開始から遺産分割が確定するまでの間に発生した不動産の賃料収入は分割協議の結果に拘らず、その相続財産の共有の割合に応じて分けるべきとの判断を示した。
 賃貸人の死亡により相続が発生した場合、各共同相続人からその相続分に応じて賃料の支払請求を受けることになるが、賃借人は通常、誰が相続人か判らない場合が殆どである。また、遺産分割協議が確定した後は相続人から賃料の支払い請求を受けることになるが、遺産分割協議の成否について関係者でない賃借人には判らないのが通常である。
 従って今回の最高裁判決対策としては相続人全員により賃料支払用の銀行口座が指定されでもしない限り、債権者不確知を理由とした供託による対処をし、そして遺産分割協議書が別途提示されない限り、供託を続けざるを得ない。
 なお供託をする場合、供託書の「被供託者」の欄には死亡した賃貸人(鈴木一郎の場合)の「住所」と「鈴木一郎の相続人」と記入。「供託事由」の欄は「賃貸人が死亡し、その相続人の住所・氏名が不明のため債権者を確知できない。」と記入する。




組合の催物とお知らせ

■城北借組 「西武デパート相談会」
 10月15日(水)・16日(木)午前11時〜午後5時(午後1時〜2時昼食休憩)まで、西武デパート7階お客様相談室。
 「無料法律相談会」
 10月17日(金)午後2時から城北法律事務所。担当田見高秀弁護士。相談者は要予約。連絡・(3982)7654。
■大田借組 「借地借家問題講座・相談会」
 10月18日(土)大田文化の森。10月25日(土)大田区消費生活センター。時間はいずれも午後6時半。連絡・(3735)8481。
■多摩借組 「定例法律相談」
 10月4日(土)午後1時30分から組合事務所。担当山口真美弁護士。相談者は必ず電話で予約。連絡・042(526)1094。
■江東借組 「法律相談」
 毎月第2水曜日午後6時から亀戸カメリアプラザ(亀戸文化センター)。連絡・(3640)4694。
■葛飾借組 「定例相談」
 毎週水・金曜日の午前10時から組合事務所。連絡・(3608)2251。
■足立借組 「定例相談」
 毎月第2日曜日午後1時から2時、組合事務所。要事前連絡。連絡・(3882)0055。
■荒川借組「夜間相談会」
 毎月第1・第3水曜日午後7時から組合事務所。
 「法律相談」
 毎月第3金曜日の午後7時から組合事務所。連絡・(3801)8697。
■世田谷借組 「相談会」
 毎月25日午後2時〜7時まで組合事務所。連絡・(3428)0828。
■北借組 「法律相談」
 10月1日(水)・15日(水)午後7時から赤羽会館。連絡・(3908)7270。
■東借連「弁護団会議」
 9月17日(水)午後6時30分から城北法律事務所。





毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可

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