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東京借地借家人新聞


2006年12月15日
第477号
 ■判例紹介

他の賃借人が発生させた悪臭により賃貸人に損害賠償が認められた事例

 他の賃借人が飲食店経営により発生させた悪臭について、賃貸人に債務不履行に基づく損害賠償責任が認められた事例(東京地裁平成一五年一月二七日判決、判例タイムス一一二九号)

(事案)
 賃借人は、ビルの一階部分を、賃料月額二〇万円で賃借して婦人服販売店を経営していたが、賃料不払のため賃貸借契約を解除された。賃借人は、賃貸人から店舗明渡訴訟を起こされたが、和解の中で、次のような主張をした。ビル内の飲食店から魚の生臭い匂い、煮魚・焼き魚の匂いなどが発生し、賃借人が賃貸人に苦情を申入れ換気装置の改善措置がとられたが、やはり悪臭は止まらなかった。顧客は減り売り上げも減った、だから賃料を支払わなかったと。しかし、その点は、別訴を起こして裁判所の判断を受けるということで、店舗を明渡す和解をした。
 そこで、賃借人から賃貸人に対して、悪臭による損害賠償請求の訴訟を提起した。

(判決の要旨)
「地下一階の飲食店の営業活動によって、魚の生臭い匂い、煮魚ないし焼き魚の匂いが発生し、賃借人の婦人服販売業に影響を与えたことが認められる。しかし、賃貸者契約における賃貸人の義務を考えるに、賃貸人には、あらゆる匂いの発生を防止すべき義務があるというものではなく、賃貸借の目的から見て、目的物をその目的に従って使用収益するうえで、社会通念上、受忍限度を逸脱する程度の悪臭が発生する場合に、これを放置もしくは防止策を怠る場合に、初めて、賃貸人に債務不履行責任が生ずるというべきであり、悪臭発生の有無、悪臭の程度、時間、当該地域、発生する営業の種類、態様などと、悪臭による被害の態様、程度、損害の規模、被害者の営業等を総合して、賃借人として受忍すべき限度内の悪臭か否かの判断をすべきである。
 本件についてみると、賃借人の三〇数人の顧客が、地下飲食店からの魚の匂いについて、かなりの不快感を示しており、主たる商品である婦人服等に魚の匂いが付着し、悪臭によって被害を被った事実が認められ、他方賃貸人において、悪臭に関する抜本的な解決策をとらなかったことが認められる。
 したがって、賃貸人は、賃借人に目的物を使用収益せしめる義務を怠ったものであるから、賃借人に対して債務不履行責任を負うというべきである。賃借人の被った損害額であるが、平成一二年五月ころから同一四年七月一五日までの間において、悪臭の発生等相当因果関係にある損害は、八〇万円と認めるのが相当である。」

(説明)
 本件では、顧客の報告書によって悪臭の被害が認定されたが、立証の難しさがある。損害について賃借人が月二二〇万円の二割程度の収入ダウンがあったと主張したが、裁判所は総額八〇万円が相当な損害額だとした。本件賃借人は、賃貸人の悪臭防止義務不履行対して賃料不払いで対抗しているが、一般的にはこのような対抗はすべきでないだろう。 

【再録】




地代減額で頑張る
羽村市双葉町の斉藤さん

地代が税額の9倍弱
東京高裁は地裁の不当判決を覆くした

 借地の地代減額を争ってきた借地人である斉藤さんは、昨年の9月に東京高裁で年額29万7000円の地代を平成16年1月1日から年額18万2600円に減額する判決を勝ち取った。
 借地人の斉藤さんは、アメリカ人の父親が借地する羽村市双葉町の宅地約100坪を平成8年に相続した。
 地代は父親の時代に平成3年年額21万7200円、平成4年24万3490円、平成5年26万4000円、平成6年29万7000円と毎年のように値上げされてきた。平成3年の地主の請求書には、「固定資産税の約4倍」との記載があり、父親は固定資産税が上がったものと信じて支払ってきた。
 斉藤さんは、疑問に思って平成10年に地主に固定資産税を開示するよう求めたが一向に開示されず、平成11年になって国や自治体が借地人への開示を認め初めて税金を試算し、平成11年以降税金が下落しているにもかかわらず平成15年の地代は公租公課の実に8・74倍と高額な地代であることが判明した。
 斉藤さんは、平成15年11月に地代減額を請求し、地主が拒否したため、平成16年2月に青梅簡裁に調停を申立てをした。地主の拒否で調停は不調になった。さらに弁護士を代理人に立て東京地裁八王子支部に提訴したが「現行賃料は不相当とは断定できない」と敗訴したが、諦めずに東京高裁に控訴し、一審判決を覆した。




借地の鋪装で問題

板橋区

 板橋区小豆沢で借地して住む鈴木さんの土地は5〜6年前に地主が突然関西の業者に売却した。その後は、暴力的な脅かしもあり組合の入会した。組合から面会の強要などに対し、警告書などを通知するなどの対処した結果、面会の強要などはおさまり地代は銀行振込となって落着いた 
 鈴木さんはその後、介護保険で、室内のバリアフリーの工事を行うために区役所の許可をもらうことにした。室内と共に玄関から道路までの舗装が必要になり、ケースワーカーと話し合いを持った。しかし、当初必要としてない貸主の承諾を添付せよと書類をもってきた。しかも、その書類は建物の工事許可承諾書で一切土地の承諾ではないことなどから区役所の担当者に問合せをした。担当者は「介護保険の法律で建物の工事には貸主の承諾書を添付となっている。その建物を広い意味で土地と解釈して適用している」と説明した。地主がこのことに承諾をしないことは明らかであり、組合ではこの問題を東借連、全借連と相談し、厚労省との交渉や国会で取り上げていくことにした。




 

店舗で合意

交渉の中で家主が元組合員
であることが判明し和解に

大田区

 大田区西蒲田地域に住む大貫さんは借地人であったのです。数年前組合の協力を得て地上げ屋から希望額で底地を購入して悩みは解消されたと思っていたのです。
 この程、組合事務所を訪ねられての相談は、蒲田1丁目に所在する借店舗の契約更新を向かえて、賃料の値上に応じて更新するか、更新する考えがない場合は明渡せとの条件提示されたという。
 組合は直ちに更新することを家主に通告することを伝えると、公正証書による契約書と、これまでの経過を確認すると、従前の賃借人から賃借権を譲渡されて今日に至ったのです。これらを精査すると前賃借人から継承した敷金が勝手に解消され、前回の更新の際には保証金償却が約定以上償却されていたことが明らかになった。大貫さんはこの事実を伝えると同時に組合を通して交渉されるよう申し入れたのですが、家主から組合への連絡はありません。トラブルにならないようにとの大貫さんの希望もあって、組合から家主への連絡は控えていたのです。しかし、一向に進展しないので組合が家主に問い合わせると、以前当組合の組合員であったということで交渉はスムーズに行なわれた。消された敷金10万5000円とさらに償却で不明となった5万円の保証金も回復で合意に至りました。家主の言い分は建物が老朽化とのことであったが、11月上旬に公正証書での契約書が作成された。
 大貫さんは組合に相談して敷金に保証金が回復されて、もっと早く組合に相談すればと喜んでおります。




【借地借家相談室】

更新を重ねた借地契約を合意解約し
新法適用の契約へ切替えられるのか

(問)借地借家法施行(平成4年8月1日)前に締結した借地契約が更新を迎える。地主に借地契約を期間満了により合意で一旦終了させ、改めて借地借家法(新法)に基づく契約にして欲しいと言われた。

(答)期間満了により一旦、契約を合意解約し、改めてその時点から新法による存続期間30年の借地契約を新規に締結することにより、新法が適用される契約内容にすることは可能である。借地人が新法施行前の借地権を捨てて新法に基づく契約に切替えることに合理的な理由があり、借地人の真意に基づいて行われたという客観的な事実があれば切替えは可能である。
 普通借地権は新法では堅固・非堅固建物という区別をせずに一律に借地権の存続期間を原則30年としているものの、最初の更新は20年で2回目以降は10年である。借地人は将来的には期間を短縮され、更新拒絶の主張、更新料請求の機会が増える。増改築の制限も強化され借地人にとって何の利点もない。このように新法は旧法に比較すると全体として貸主側に有利に、借主側に不利なものになっている。そのため貸主が既存の借地契約を新法の適用のある契約にしたいと考えるのは当然であろう。
 新法成立時の参議院附帯決議に「既存の借地関係には更新等の規定は適用されない旨及び特約で新法を適用させることは無効である旨を、マスコミその他あらゆる方法を通じて周知徹底させること。」とあるように、新法施行前に締結された既存の借地契約は新法施行後においても旧法が適用される(借地借家法附則4条但書及び6条)。そもそも、地主が新法に基づく借地契約に切替えることを借地人に要求する目的は、最終的には借地人の不利益になる契約内容に改悪するところに真の狙いがある。従って、地主がこのような不当な要求を押し付けようとしても借地人はこれに応じる必要はない。仮に借地人の無知に乗じ、或は地主の圧力に屈して借地人が意に反して嫌々従前の借地契約を形式上合意解約し、改めて新規に新法に基づく契約を締結した場合でも、合意解約に特段の合理的理由が存在せず、また借地人の真意に基づかないものであれば、旧法11条の強行規定により借地人に不利な特約として無効とされる。【再録】



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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