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東京借地借家人新聞


2006年11月15日
第476号
 ■判例紹介

賃料増額を拒否し支払額が税額以下と知っていた時は相当賃料に当らない

一、賃借人が主観的に相当と認めていない額の賃料が借地法一二条二項にいう相当賃料といえるか
二、賃借人が公租公課の額を下回ることを知りながら支払う賃料が借地法一二条二項にいう相当賃料といえるか(最高裁平成八年七月一二日第二小法廷判決。ジュリスト最高裁時の判例U三一五頁以下)

(事案の概要)
 X(地主)はY(借地人)に対して平成六年一一月分以降の賃料の増額請求(月額六万円を十二万円)をしたが、Yはこれに応じることなく従前の地代額の支払を続けた。Xらは平成二年二月に増額分の支払催告を一週間以内に支払がないときは契約解除をする旨通知した。
 そして、Xらは、建物収去土地明渡等を求める訴を提起。Xらは「Yは月額六万円が公租公課にも満たないことを知り、主観的にも月額六万円は相当でないと認識しながら、増額請求以後も従前額の支払を続けたから、借地法一二条二項にいう相当と認める賃料の支払をしたものとはいえず、債務不履行に当る」と主張。原審は、Yは増額を正当とする裁判の確定までは従前の賃料額を支払う限り債務不履行責任はないとして、Xらの明渡請求を棄却。本判決は、Yがその支払額を主観的に相当と認めていたか、その支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたかを審理して解除原因の存否を判断させるため、明渡請求に係る部分を原審に差し戻した事案である。

(判旨)
 一、賃料増額請求につき当事者間に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が従前の賃料額を主観的に相当と認めていないときは、従前の賃料額と同額を支払っても借地法一二条二項にいう相当賃料を支払ったことにはならない。
 二、賃料増額請求につき当事者に協議が調わず、賃借人が請求額に満たない額を賃料として支払う場合において、賃借人が自らの支払額が公租公課の額を下回ることを知っていたときは、賃借人が右支払額を主観的に相当と認めていたとしても特段の事情のない限り、借地法一二条二項にいう相当賃料を支払ったことにはならない。

(寸評)
 判旨一は、賃借人が従前額以上の賃料を支払う場合には、その主観的な認識如何にかゝわらず、相当賃料として、債務不履行にならないか、という問題である。
 借地法一二条二項の解釈について最高裁の判断として注目される。判旨二は、かつての最高裁第一小法廷判決(平成五・二・一八)が傍論として、公租公課額を下回ることを知っていた場合には、債務不履行になると示していたが、その事件は、公租公課額を下回ることを知らなかった事案であった。
 若干の判例の動きを経ての最高裁の判決である。公租公課額を下回る賃料の支払について、注意を要するので紹介した。

【再録】
(弁護士 田中英雄)




地上げで頑張った
大田区羽田の野村さん

宅地を買い取り新居建築
6坪の借地で17坪の宅地を取得

 大田区羽田5丁目所在の宅地約17坪を買い取り、この程新築した自宅の玄関前で微笑む野村さんに最高の時期が訪れた。
 昨年1月黒背広に黒ネクタイの2人組が訪れてから地獄の始まりであった。土地を買い取るか、借地権を売って明渡すかと怒鳴られて持病が悪化し病因通いの時、知人から組合を紹介されて同年2月に入会した。世間では地上げ屋と呼ぶ業者だ。早速、事務所に呼ぶとお馴染みの顔であった。6坪の借地人の野村さんの望みは建売ではなく、10坪の土地を取得して自分が希望する建物を建てることであった。業者と組合役員の厳しい交渉は半年余りにおよんだが、野村さんの限られた予算内で約17坪余を取得することに成功。直ちを新築工事が着工されてこの程建物が完成し入居した。
息子さんの強い要望の駐車スペースも確保することが出来た。地上げ屋が自宅を訪れなくなり、地獄の日々から救ってくれた、知人と組合には足を向けて寝られないと笑顔で話す野村さんだった。




増築で係争

無断で行った一部増築に地
主から法外な承諾料の請求

小平市

 西武多摩湖線一橋学園駅近くで約31坪を借地している山本さんは、地主に無断で2階部分の一部を増築し、屋根の改修工事を行なった。
 契約書では、地主に書面で承諾を受けることになっていた。地主の代理人から、承諾料として更地価格の5%の236万円と、地代現在坪800円を一挙に1500円に値上げするよう請求を受けた。山本さんは、地主に無断で増築したことを謝りに行ったが、地主からは代理人と話し合うよう言われ、代理人の不動産業者と何度か会って書面のやり取りを行なった。
 山本さんは、新築でもないのに5%はあまりにも高額で路線価の2%程度の承諾料は支払う旨条件を提示したが、地主の代理人は承諾料の条件を譲らず、支払わないと契約を解除すると脅かしてきた。山本さんは、19年前の更新時に250万円の更新料を支払っている。山本さんから相談を受けた組合は、増築に関しては無断であるが、軽微の契約違反で契約を解除されるような、信頼関係を破棄する重大な違反ではないので、地主の代理人の請求は法外であり、地代も固定資産税等が月額坪220円なら、現行地代でも3・6倍と高額でこれ以上値上げする必要はないとアドバイスした。
 この不動産業者は、この近くの別の借地でも不当な請求をして、借地人から総すかんに会っている。組合から「軽微な違反に対する賃借人の提案した範囲内で話し合いによる解決を望んでいる」旨の通知を出したが、地主の代理人から何の返事もない。




 

無効な定借契約

仙台市

 仙台市でアンティ―クの雑貨のお店を営業している斉藤さんは今年の8月に建物を取り壊すので明渡して欲しいと言われた。突然の話しで困っていると家主はいきなりこの契約は今年の二月までの定期借家契約で期限が過ぎているので6ヶ月の予告で解約できると言ってきた。心配になってインターネットや本などで借地借家人組合と言う組織の存在を知って相談にきた。電話での相談で困難な面があったが、契約書などをファックスで送付したところ、定期賃貸借契約だという家主の主張には定期借家契約に必要な書面による通知がなかった。その上、家主の夫は宅建主任の免許をもっており、その仲介での契約であった。家主の代理人である弁護士からは」「定期借家契約に基いて、引き続き契約するならば定期借家契約。それ以外ならば明渡しを求める」との通知がきた。
 組合では斉藤さんと相談し「この『定期借家契約』そのものが借地借家法第38条2項の文書がないことで無効となり、通常の賃貸借契約であること。又、期限が過ぎての契約解除通告は無効である」と主張することにした。




毎日毎日家主に値下げ
請求し、2万円下がる

足立区

 足立区中川で弁当屋を営んでいる大山さん御夫妻。
 約20年こうこつと店を切り盛りしてきた。
 あのバブルの頃鼻息の荒かった家主に、更新が来ると更新料を2ヶ月も払い、家賃の値上はされ、いい様にされてきた。でも、あの頃は自分緒商売の弁当屋も面白い程売れた。しかし、最近商売もうまく行かず気がつくと貯金も底を突き、体もくたくたに。
 廃業しかないと考えている時に、組合を知っている人に出会い早速相談。組合のアドバイスは値下げ交渉だった。
 恐る恐る家主に言ったら、「うちも大山さんから貰う家賃を生活費の足しにしているだから」と言われ目がさめた、家賃を生活の一部にするなら不況の時の痛みわけ、くる日もくる日も交渉し2万円下がった、組合を教えてくれた友人は女神様です。




【借地借家相談室】

借地人が死亡し借地権を相続するの
と建物賃貸に地主の承諾は必要か?

(問)父が亡くなり、私が借地権を相続することになりました。相続に当たり地主の承諾は必要ですか。地主は契約書の書換えと、名義書換料を要求してきています。それと、その建物を人に貸すことは出来ますか。建物を人に貸す場合は、地主の許可が必要ですか。(新宿区 会社員)

(答)借地権も他の遺産と同様に法的に当然相続人が相続する。親が死亡すると相続が開始され、親の有していた法律的地位が当然に相続人に一体として移転することを包括承継と言う(民法第896条)。包括承継は相続法の基本原理とされ、遺産中の不動産・動産のみならず債権や債務を承継するもので、被相続人の地位の承継とも解される。従って相続人は死亡した親の借地権を承継し、地主に対する権利・義務も一切引継ぐことになる。地主との賃貸借契約の内容を誠実に履行していれば何らの問題も惹起されない。「土地を借りた本人が死亡したのだから、土地を返してもらいたい」と地主に要求されても、それに応じることはない。
 まず、相談者の場合は、相続で借地権を譲り受けたので、名義書換の問題は発生しない。よって、地主の承諾は必要ない。名義書換料要求は不当であり、拒否しても何ら問題はない。勿論、契約書を新しく作り直す必要もないので、今まで通りでいい。相談者は、地主に「私が相続人になりました」と通知すればそれでいい。
次に、借地上の建物を人に貸すことについてであるが、何ら問題ない。借家を無断で他人に貸した場合は、転貸ということで契約解除の理由になる。しかし、借地人が地主から賃借しているのはあくまで土地であり、その土地上の建物は借地人の所有物であり、自由に使用収益することが出来る。借地契約は、借地人に建物を所有させることを目的とする契約だから、借地人が所有建物を貸して収益を上げることは借地契約の目的に反するものではなく、転貸にはならない。万が一、地主が「無断転貸をしている。契約違反だから承諾料を払え」等と言ってきても文句を言われる筋合いは無い。拒否すればいい。
 但し、借地上の建物を第三者に売却する場合は、借地の無断譲渡または無断転貸の問題が起きるので注意したい。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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