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東京借地借家人新聞


2006年8月15日
第473号
 ■判例紹介

賃料減額しない旨の特約があっても
借主の減額請求権が認められた事例

 建物所有を目的とする土地の賃貸借契約において、賃料を減額しない旨の特約があっても、賃借人から借地借家法第11条の規定に基づく賃料減額請求権の行使が認められた事例(最高裁平成16年6月29日判決、判例時報1868号52頁)

(事案の概要)
 本件土地賃貸借契約は、「3年ごとに賃料の改定を行うものとし、改定後の賃料は従前の賃料に消費者物価指数の変動率を乗じ、公租公課の増減額を加除した額とするが、消費者物価指数が降下しても賃料を減額することはない」旨の特約が付されていた。
 これまで、本件土地の賃料は、本件特約に従って3年ごとに改定されてきたが、賃借人は、「その後土地の価格が4分の1程度に下落したことなどに照らして現在の賃料額は高すぎる」と主張して、賃貸人に対して賃料の減額を請求し、減額後の賃料額の確認を求めて本件訴訟を提起した。
 これに対し、原審の大阪高等裁判所は、「本件のような賃料の改定特約は、賃料の改定をめぐって当事者間に生じがちな紛争を事前に回避するために、改定の時期、賃料額の決定方法を定めておくものであり、本件特約は、消費者物価指数という客観的な数値であって賃料に影響を与えやすい要素を決定基準とするものであるから有効である。したがって、本件特約に基づかない賃借人らの賃料減額請求の意思表示の効力を認めることはできない」として賃借人の請求を棄却した。
 そこで、賃借人は、原判決を不服として、最高裁に上告受理の申立てを行った。

(判決)
 最高裁は、上告受理の申立てを受理し、『本件土地賃貸借契約においては、消費者物価指数が降下したとしても賃料を減額しない旨の特約が存する。しかし、しかし、借地借家法第11条1項の規定は、強行法規であって、本件特約によってその適用を排除することができないものである。したがって、賃貸借契約の当事者は、本件特約が存することにより借地借家法第11条1項の規定に基づく賃料減額請求権の行使を妨げられるものではないと解すべきである。』と判示した。

(短評)
 本件は、賃料改定特約がある場合に、特約に基づく請求ではなく(本件では「減額することはないとの定め」があるためその余地はないが)、借地借家法第11条に基づく賃料減額請求ができるかがあらそわれた事案であるが、特約によっても減額請求を制限することはできないとのこれまでの最高裁判例を確認したものである。
 本判決は、賃料の減額をしない特約が明らかに存する場合においても、賃借人からの賃料減額請求が認められた点において事例的な意義がある。

【再録】(弁護士 榎本 武光)




借地で頑張ってる
八王子市明神町の岡田さん

地主と等価交換で協議
深刻な不況で織物業を廃業し高額地代が重圧

 八王子市明神町の岡田さんは、昭和12年の祖父の代から借地している。
 土地は、250坪で自宅と工場、敷地の一部を貸駐車場として利用している。工場も使用してないため、現在一部倉庫代わりに貸している。岡田さんは戦前からの織物業で、家業が繁盛していた頃は、女工さんが何名も寄宿していた。戦後、70年代初頭の日米繊維交渉を機に、日本の繊維業界は深刻な不況となった。それでも岡田さんはネクタイを製造して賢明に頑張ってきたが、昭和47年に父親をなくし、平成7年にはともに仕事をしていた母親もなくなり、仕事をやめることにした。
 地代は昭和60年に月額9万円、平成4年に12万5000円、現在は月額16万円支払っている。駐車場の代金だけでは、地代も賄えない。
 岡田さんの借地の隣が地主の所有する駐車場で、地主は代理人の不動産業者を通じ等価交換の話をもちかけている。岡田さんも、250坪の借地権を維持することが困難である為、組合を窓口に等価交換の話をすすめていく予定だ。




借地の明渡

不在地主が突然に借地を
買取ってやるから立ち退けと

大田区

 大田区蒲田本町に宅地約9坪と約12坪をそれぞれ賃借している。高橋さん、田中さんは、7月の契約更新を目の前にした6月、北海道に住み替えて相当時間が経過している地主から更新拒絶の通知書を受け取った。組合を知っていた彼らは入会した。
 通知書を見て驚く、借地権を現在の地代の約54年分、約42年分に消費税を加えて買い取るとの内容だった。
 直ちに借地人らは、所有する建物が現存するので借地法第4条による契約の契約更新を請求した。しばらくして地主の代理人という、六本木ヒルズに事務所を構える弁護士から内容証明郵便にて、土地の有効利用を理由に更新拒否して地主が提示した金額で買い取るので協議したいと申し込まれた。借地人らは、借地権を売却して他に移転する考えはないこと。よって、地主に協議には応じられないと通告した。
 地主は同地に居住時に、マンション業者に土地売却し残地を賃貸駐車場にしている。借地権を低額で買い取って土地を売却して高額な利息を得ようという、有効活用を正当事由にするとは恐れ入る。
 こんな地主の勝手な主張を認めることはできないと、借地人は断固地主と対決する決意を固めている。
 もともと立ち退く考えはないが、こんなに安い金額を提示するとはそもそも借地人らの権利を無視したもので、人を押し退け犠牲にしても「金儲け」しようとする姿勢は、ますます社会的格差を拡大するものでゆるせない気持ちを強くした。




賃料減額で和解

春日部市

 埼玉県春日部市で長年商売をしてきた山川さんは、三年前の更新の時に賃料値下げを請求した。そのときに、貸主は、ほんの僅かだけ賃料の減額を提案し合意した。同じ市内で店舗の明渡し問題で組合に相談し、希望するとおりの合意が出来た鈴木さんの話しを聞いて組合に相談することにした。組合では、契約書や近隣の相場などみたうえで賃料の減額請求と保証金の一部返還、更新料と保証金の償却などの問題を山川さんと話し合い、このすべてを請求することにした。貸主は自分ではだめと思い弁護士を立ててきた。話合いはしたがこちらの請求をほとんど拒否したために賃料減額の調停を簡裁に提出した。近隣の不動産屋から資料提出を受けて調停にのぞんだが適正な賃料として不調にさせられた。
 山川さんこのままでは納得できないと裁判にした。鑑定も辞さないと裁判で主張したところ相手の弁護士もこちらの減額請求に応じ、和解したいと言ってきた。
 山川さん「あと一歩出来るだけ希望に添うよう減額させたい」と語った。




大修繕で危うく地主に
付込まれそうになった

足立区

 足立区足立に住んでいる中根さんは、この地に借地して50年になる。勿論親の代からで、13年前更新を迎え合意更新をした。あと7年あるのですっかり安心し大修繕を計画し、仮住まいも確保して引っ越してしまった。
 銀行と話し合いを進めたら、「地主の承諾書」ということになりお願いに行ったら承諾料と新たに契約更新をするようにと言い出され八方ふさがりの状態で組合に来た。
 交渉してもうまく行かず、多少金額的に安くしてもらうに留まり泣く泣く支払った。
 しかし、持ち主の登記簿謄本を要求したら相続が済んでいない為、銀行融資が出来なくなった。支払った更新料と新契約書は破棄し、承諾料だけ支払って、返金された更新料と持ち金をかき集め工事にかかった。相手のミスで旨く行ったけれど順序を踏んで行動しないとと反省しきりであった。




【借地借家相談室】

3階建ビルを建てる計画で借地契約を
結んだが20年の契約期間であった

(問)昭和61(1986)年9月に30坪の土地を期間20年で借地契約を結び、鉄骨3階建の建物を建てて住んでいる。地主は、今年の8月に借地の更新をするのであれば更新料300万円(坪10万円)を支払えと言って来た。
 最近友人から、耳よりなことを聴いた。それは堅固建物の場合は、契約期間が30年以上と決まっているから、借地の更新は10年後の2016年だというのである。これは本当なのでしょうか。

(答)最高裁判所大法廷は、「建物所有を目的とする土地の賃貸借契約において、借地法2条2項所定より短い期間を定めた場合には、右存続期間の約定は同法11条により定めなかったものとみなされ、右賃貸借の存続期間は、借地法2条1項の本文によって定まる」(1969年11月26日)との統一解釈を示した。借地法2条1項は、借地権の存続期間について当事者間に約定がない場合は鉄骨や鉄筋コンクリート造り等の堅固建物の所有を目的とするものは60年、その他の非堅固建物は30年と法定存続期間を定めている。同法2項では当事者間に約定がある場合は最短期間を堅固建物は30年、非堅固建物は20年に制限している。この存続期間の定めに反する特約で借地人に不利なものは無効とされる(同法11条)。
 相談者の借地契約は平成4年8月1日以前の契約なので、旧借地法が適用される。相談者の場合は、堅固建物で借地期間が20年の契約なので、借地権の最短約定存続期間の30年に満たない。最高裁の判例に基づけば、期間20年の約定は同法2条2項に抵触し、同法11条により借地人に不利な契約条件として無効になり、約定は定めなかったものとみなされる。存続期間については当事者間に何らの合意も存続しなかった場合として扱われ、同法2条1項本文から堅固建物所有目的の借地権は60年の存続期間となる。従って借地期間は後40年間存続することになる。即ち2046年まで継続する。
 木造など非堅固建物の最低約定存続期間よりも短い期間(20年以下)を合意で定めたとしても、当事者の意思に関係なく30年ということになる。借地法の考え方には借地人に出来る限り長期の存続期間を確保しようという意図が根底にある。それ故、最短期間には制限があるが、最長期間に関しては制限がない。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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