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東京借地借家人新聞


2006年7月15日
第472号
 ■判例紹介

契約が期間満了で終了した場合は
その終了を再転借人には対抗できない

 事業用ビルの賃貸借契約が期間満了により終了した場合、賃貸人は信義則上その終了を再転借人に対抗できないとされた事例(最高裁平成14・3・28判決、判例時報一七八七号)

(事案の概要)
1、 (原告)は、ビルの賃貸、管理を業とするA社の勧めにより、Xの土地上にビルを建築してA社に一括して賃貸し、A社から第三者に店舗又は事務所として転貸させ、賃料の支払を受けるということを計画しビルを建築した。
2、 そしてXとA社は、ビル全体について期間20年の賃貸借契約を締結した(本件賃貸借)。同時にA社は、Xの承諾を得てその一室(店舗)をBに転貸し、さらにBは、XとA社の承諾を得てYに再転貸した(本件再転貸借)。現在もYが店舗として使用している。
3、 A社は、平成8年にXとの賃貸借の期間20年が満了するに際し、転貸方式によるビル経営が採算に合わないとして撤退することとし、Xとの賃貸借契約を更新しない旨の通知をした。そこでXはBとYに対し、A社との賃貸借契約が期間満了により終了する旨通知した。
4、 XはYに対し本件店舗の明渡しを求めたが、Yは、信義則上、XとA社間の賃貸借の終了をもって承諾を得た再転借人であるYに対抗することはできないと争った。

(判決要旨)
 本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的(ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定していたこと、A社の知識、経験等を活用して収益を上げさせること、Xは自ら個別に賃貸する煩わしさを免れ、かつ、A社から安定的に賃料収入が得られること)を達成するために行われたものであって、Xは、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、Yによる本件転貸部分の占有の原因を作出したものというべきであるから、A社が更新拒絶の通知をしても本件賃貸借が期間満了により終了しても、Xは、信義則上、本件賃貸借の終了をもってYに対抗することはできず、Yは、本件再転貸借に基づく本件転貸部分の使用収益を継続することができると解すべきである。Xの敗訴。

(短評)
 第一審はX敗訴、第二審はX勝訴、そして第三審はまたX敗訴という具合に結論が分かれた。本件は、いわゆるサブリースの事案について、賃貸人(X)が賃貸借の終了をもって信義則上転借人(Y)に対抗できない場合のあることを判示した初めての最高裁判例であるとされている。
 XとA間の賃貸借契約が合意解除された場合には、Xは転借人Yに対抗できるというのは古くから確立された判例であったが、この判決は、合意解除ではなく、期間満了により終了させた場合について、しかも、それがサブリースである場合について、新しい判断を示したものである。

【再録】(弁護士 白石光征)




明渡しで頑張った
豊島区池袋の山崎さん

商売でないと営業保障を否定
交渉相手が弁護士に移ると営業保障で合意

 豊島区池袋の駅から4〜5分のところに長屋形式の居室付店舗を借りて、古くから商売をしていた山崎さんは、昨年家主から明渡しを求められた。商売も昨今の不況の中で、大変厳しい状況でもあり、又、本人も病気を抱え、商売を続けるか、廃業するかで悩んだすえに立退きを機会に廃業することにした。同時に、この間の貸主の確執もあり、立退き問題の交渉については借地借家人組合に入会してがんばることにした。
 当初は、借主の商売は商売でないなどと主張し、立退き補償も一般的な居室の明渡し程度の補償しか提案してこなかった。組合が窓口になって直接家主とも話し合ったが、こう着し、進まなかった。山崎さんにとっては、話が進まなければ今までどおり営業しし生活していくと考えていた矢先に相手側が弁護士をたてていっきにすすんだ。居室並みの補償から営業補償も含み提案し、不十分さはあるが同意することにした。「組合に入会していたおかげで安心して話合いができました」と山崎さんは語った。




明渡を拒絶

突然訪問し3時間も粘る家主の
明渡請求を断念させた

国分寺市

 国分寺市並木町に住む田中さんは夫婦と長男の3人家族。2年前の04年5月に木造2階建4DKの貸家を家賃月額10万円、敷金2か月分、礼金1か月分を支払って契約した。
 去年の夏に家主が突然死亡し、5月の初めに家主の奥さんが突然訪ねてきた。新しい家主となった奥さんの話によると、ご主人の入院先が遠いため転居したが、主人が亡くなったので元の家に住みたいので退去して欲しいとのこと。契約は更新しないと言ってきた。
 田中さんは、契約更新間際になって突然言われても出て行くことはできないと断ったが、3時間も粘られて一方的に話をされ、ほとほと困ってしまった。
 田中さんは、インターネットで検索し、立川市に組合があることがわかり、早速に相談に行った。
 「家主は解約するには1年前から半年前まで解約の通告をしないと契約は従前と同一の条件で更新される(借地借家法第26条)ので、明渡しの話には一切応じる必要はない」とアドバイスを受け、今度家主と会う約束をしているのであれば、面会を断り、「今後の交渉は組合に任せている」と伝えることにした。
 家主から早速組合に連絡が入り、電話でのやり取りだけだったが、今回の明渡しを家主は断念。
 この度、更新契約書の作成を求めてきたが、契約書の内容が前より借主に不利であるため突き返すことにした。




無断で境界杭打

大田区

 大田区下丸子2丁目所在の宅地48・51坪を賃借中の森さんは、今年11月の更新を控えて地主の突如の地代値上げにも、値上げ額下げさせて応じてた数ヵ月後の6月上旬でした。これまで無かった境界杭が何の説明も了承も得ずに打たれていたことに驚き、すでに組合員であった森さんは事務所へ相談にこられた。以前道路の調査の際測量士が他の杭等から推測して境界線とした目印の赤線よりも6cmも森さんの占有地に越境していたのです。地主はとなりの借地人が移転し、更地になった土地を不動産業者を介して売買したので杭を打ったとのこと。森さんの抗議に対し、地主から依頼された不動産業者は、更新も近い悪いようにはしないとか、越境分を金銭で補償したいという。森さんは、指示とおり目印の所に杭を打ち直さない場合、組合と相談しているので境界確認の訴訟を起こすと伝えると、翌日業者とこの件に関わった測量士が森さんの主張を認めて境界杭を入れ直した。
 森さんは約3日間の攻防であったが、組合員と知ってから地主・不動産業者等の豹変には驚いたという。




修繕費が敷金の3倍

国交省のガイドラインでの算定要求

板橋区

 板橋区に事務所をかまえ、埼玉県志木市で店舗を借りてリフォームの営業をしていた松本さんは、5月末日で店舗を明渡すことにした。当日、室内をみてもらい、鍵を返還しようとしたが、原状回復費用が敷金の三倍程度あることを理由に受取りを拒否した。貸主は当初、大手K建設会社であったが、昨年、S信託銀行に変わった。貸主の代行としてTコミュニティーというこれも大手の管理会社だった。組合と相談し、貸主のS信託銀行に内容証明で鍵の返還と明渡しを通告した。同時に、原状回復問題では、国土交通省のガイドラインに基いて行うよう求めた。相手からの回答で解約日は5月末日、原状回復費用についても当初請求の三分の一の費用で回答してきた。裁判で争って行うことも検討できたが、この回答で合意することにした。




【借地借家相談室】

貸主が依頼した宅建業者の更新手続に際し
報酬支払義務があるのか

(問)賃貸借契約を更新する際、貸主に委託された不動産業者の仲介で契約の更新手続が行われた。その際の更新手数料(家賃の半月分)を不動産業者から請求された。支払わなければならないのか。

(答)賃貸借契約の期間満了した場合、合意で契約を更新する。その際に不動産業者(宅建業者)が賃貸人と賃借人の間に入って契約の更新手続を行うことが日常的になっている。この場合、宅建業者は更新手続の依頼者に報酬を請求出来るのは勿論であるが、直接依頼していない者に対しても報酬の請求が出来るのか。
 「宅地建物取引業者は商法543条にいう他人間の商行為の媒介を業とする者ではないから、商事仲立人ではなく、民事仲立人である」(最判1969年6月26日)と言われている。民事仲立人とは、他人間の商行為以外の法律行為の成立に向けて尽力する事実行為であり、他人間の商行為の成立を目的とする商事仲立と区別される。民事仲立については明文の規定がなく学説・判例は一般に民事仲立を準委任と解している。従って宅建業者の行う媒介行為は民法上の準委任関係になる。宅建業者が当事者に報酬を請求出来るのは媒介に際して委任を受けた当事者に限られる。
 しかし宅建業者は営業として媒介を行うので商法上の商人に該当する。商人がその営業の範囲内において他人のために一定の行為をしたときは相当の報酬を請求することが出来る(商法512条商人の報酬請求権)。だが宅建業者が委任を受けない相手に対して商法512条に基づく報酬請求権を取得するためには「客観的にみて、該当業者が相手方当事者のためにする意思をもって媒介行為をしたものと認められることが必要である。単に委託者のためにする意思を持ってした媒介行為によって契約が成立し、その媒介行為の反射的利益が相手方当事者にも及ぶというだけでは足りない」(最判1975年12月26日)としている。
 従って宅建業者が契約更新に際して報酬請求が出来るのは依頼者である貸主に限られ、依頼していない相談者には報酬を請求出来ない。相談者に更新手数料を請求するのは不当である。
 なお宅建業者が依頼者である貸主に対して報酬請求出来る上限は賃料の1ヶ月相当額+消費税である。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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