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東京借地借家人新聞


2006年4月15日
第469号
 ■判例紹介

建物競売の場合に借地権譲渡許可の
裁判で敷金の差し入れを命じた事例

 建物競売等の場合における借地権譲渡許可の裁判で、敷金(保証金)を差し入れることを命じた事例(最高裁平成13年11月21日決定、判例時報一七六八号86頁)

(事案の概要)
 YはAに対して、堅固建物所有を目的として、土地を賃貸し、Aはその土地上に5階建ビルを建築して所有していた。
 ところが、Aの建物について競売が申し立てられ、Xが借地権付建物として競落した。 
 XはYに対して、借地権譲渡の承諾を求めたが、Yが承諾しなかったので、Xは、借地借家法第20条に基き、裁判所に対して地主の承諾に代わる許可を求める申立てをした。
 ところで、本件においては、もともとAがYに対して敷金(保証金)一千万円を差し入れていた経過がある。
 鑑定委員会は、申立てを容認するのが相当としたうえ、付随的裁判としてXに対して譲渡承諾料の支払をさせるほか、敷金として金一千万円を差し入れさせるのが相当であるとの意見を出した。
 大阪地裁及び大阪高裁は、借地権譲渡を許可し、付随的裁判として、譲渡承諾料の給付のみを命じ、敷金に関しては、借地借家法第20条1項後段の付随的裁判として敷金の差し入れを命ずることはできないと判示した。
 これに対し、Yは付随的裁判として敷金の差し入れを命ずべきであるとして、もしそれを命じないのであれば、申立てを棄却すべきであると抗告許可の申立てをした。

(裁判)
 最高裁は、「旧賃借人が交付していて敷金の額、第三者の経済的信用、敷金に関する地域的な相場等の一切の事情を考慮した上で、法20条1項後段の付随的裁判の1つとして、当該事案に応じた相当な額の敷金を差し入れるべき旨を定め、第三者に対してその交付を命ずることができるものと解するのが相当である」として原決定を破棄し、大阪高裁に差し戻した。

(短評)
 競売・公売により借地権付建物を取得した場合、競落人には譲渡の承諾に代わる許可の制度が設けられている。そして、許可の申立てを認容する場合、裁判所は当事者間の利益の衡平を図るため、必要があるときは、付随的裁判として借地条件を変更し、又は財産上の給付を命ずることができるとされている。(借地借家法第20条)
 ところで、これまで敷金(保証金)の差し入れを命ずることができるかどうかについては最高裁の判例がなかったところ、今回の決定により、敷金(保証金)の差し入れも借地条件の変更・財産上の給付とされたことから、今後は、競落に当たって、従前の敷金(保証金)の有無・金額を調査する必要があり、また、敷金(保証金)の差し入れを命じられることがあることを覚悟する必要が出てきた。【再録】

(弁護士 榎本武光)




増築で頑張った
小平市小川西町の大崎さん

地主の承諾不要な融資で
更新料は断わり、地代は相当額で供託中

 小平市小川西町で54坪を借地している大崎さんは平成3年に地主から契約書を送りつけられ、契約の更新の名義変更料として200万円を請求された。都の相談室の弁護士に相談し、法律上根拠のない名義変更料と契約書の作成を拒否した。
 すると地主は、翌年の平成4年に地代を坪1100円から1400円に値上げしてきた。
 大崎さんはたまらず値上げを拒否し、坪1100円で地代を供託した。
 大崎さんは母親と夫婦と子供3人の6人家族で、子供さんも成長したので、増築して子供の勉強部屋を作れないか思案し組合に相談をした。
 幸い、大崎さんの最初の契約書には増改築の定めがなく、また大崎さんは東京都の職員で都の職員共済組合で地主の承諾書がなくても融資が可能であることなどから組合の紹介で住宅生協に工事を依頼した。
 工事は4ヶ月間かかったが、幸い地主の妨害もなく工事は順調に行なわれて完成した。子供達も自分の部屋が出来たと大喜びだ。




立退で合意

一年がかりで粘り強く新家主と
立退補償交渉を行った

大田区

 大田区南蒲田2丁目の室井さんが同地所在の木造2階建店舗兼共同住宅の内、階下南側店舗約33・8平方メートルと階上の居宅3号室に5号室(各和室6畳)を賃借して、洋品縫製業を営み始めたのは昭和44年でした。これまで色々な困難は頑張りで切り抜けてきたのです。しかし、平成9年1月に家主が死去し、しばらく相続人が見つからず家賃の供託が約2年続き、相続人より相続財産の管理人の依頼をされたという弁護士と更新契約を締結した。地元の不動産業者が建物の管理人となり家賃の持参先となって、状況が大きく変化した。財産管理人は処分先を検討しているので、組合を紹介されて入会したのが昨年の3月でした。年末には買い手が決まり、従前の家主の地位を承継したと家賃の振込み先を指定してきた。平穏な日々は続かず、新家主から依頼された業者は、室井さんに移転先の検討や建物について、執拗に問いかけるようになった。室井さんは組合員であることを伝えて組合との交渉を求めたが拒否、組合役員と一切会おうとはしない。当初は弱気だった室井さんも余りにも低額な内容に怒りを覚えると共に組合の励ましもあって決意新たに交渉に臨む。店舗確保の費用や移転の諸経費にお得意を失うに伴う補償等、必要な補償額を家主に請求した。室井さんは、交渉のたびに組合と打ち合わせるという粘り強い交渉と頑張りによって、家賃の約102・5ヵ月分の補償額で合意。それは組合入会1周年目のことです。




消費税分を増額
豊島区

 豊島区のJR池袋駅から歩いて十数分。通り沿いにラーメン店を営む中村さんは組合に入会して十数年が経っている。毎回の更新時に家主とその代理人である不動産屋から嫌がらせを受けている。その他にも、店の前に置いてある自転車の度重なるパンク、店の前に、上からたまごが落とされるなど。今回の更新では「家賃現行通り、しかし消費税5%を上乗せして支払うこと」という通知を受けた。組合に相談し、相手の不動産屋に応じられないので現行通りの家賃で支払う旨返答したところ、不動産屋は「それなら裁判だ」と脅かしてきた。心配になった中村さんは、組合に相談し、次のように「現在、消費税は内税ですでに納めている。今回の新たな請求は賃料の値上げ請求であるので、一方的な値上げには応じられない。本来ならば値下げ請求をしたいくらいであるが、現状維持ならば、合意更新するがだめならば法定更新にする」と文書で相手に通知した。




自分で立退き交渉
一年の間、組合と緻密な打合せを重ねる

足立区

 足立区千住旭町に住んでいる中川さんは、昨年の1月ごろ立ち退きを求められた。
 話に来たのは、不動産屋とも、事件屋ともつかず判断に困った。とりあえず話を聞いてみるとマンション業者の手先だった。中川さんは、三代にわたり守り続けて来た酒店で、簡単に店を空けるわけにはいかない。
 区の法律相談や、消費者センターと足を棒にして歩き回りやっと組合に辿り着いた。
 考えのしっかりした、中山さんなら自分で交渉出来ると判断し、綿密な打ち合わせの上交渉開始。
 ちょうど1年かかり、今年の1月末に契約を交わし、3月半ばに引越しを済ませた。
 今の酒店は、大変な業種なので、これを機に娘夫婦と二世帯でのんびり住めるのもわるくないかなと、感想を話してくれた。




【借地借家相談室】

共有による複数の貸主に対して
賃料は別々に持分割合に応じて払うのか

(問)建物や土地の所有者が死亡し、複数の相続人による共同相続により、単独所有から共同所有によって建物や土地が共有に変わった。その場合、借主は賃料を各人に分割し、それぞれの相続割合に応じて各人にそれぞれ支払わなければならないのか。

(答)土地や建物の貸主が死亡した場合、相続人は土地や建物の所有権を相続すると同時に貸借関係についての貸主の地位を承継する。「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(民法898条)。
 最近は、不動産小口化商品の1つとして投資者等が細分化された建物の共有持分を買受けるケースが多くなっている。
 共同相続人や共有持分取得者が貸主人の地位を承継した場合貸主が複数になる。その場合、借主は相続割合に応じて賃料を各人にそれぞれ分割して支払わなければならないのか、それとも、貸主の内の1人に賃料を全額支払えば、それで全員に弁済したことになるのかが問題になる。
 この問題に対して、共有物件の賃料は「不可分債権」であるという判例(東京地裁1972年12月22日判決)がある。
 家賃・地代は金銭で支払う債務であるから一見したところは分割債務とするのが素直なように思われる。即ち分割が出来る可分債権に思える。しかし、共有賃料を可分債権とみなすと色々不都合が生じる。
 例えば貸主の各自は自分の共有持分の賃料しか請求・受領が出来ないし、借主からすれば、複数貸主の各人に別々に賃料を支払わなければならず、どちら側からも不便である。
 そこでこの不都合を避けるために判例は、共有賃料はその性質上不可分債権とみなした。(1)不可分債権には性質上不可分給付と意思表示による不可分給付がある。(2)不可分債権においては債権者の1人が債務者に履行を請求すると総ての債権者が履行を請求したのと同様の効果が生じる。(3)債務者が債権者の1人に履行すると総ての債権者に履行したものと同様の効果が生じる((1)(2)(3)は民法428条)。
 このことから、共有賃料は共同貸主の内の1人に賃料の全額を支払えば、それで総ての貸主に弁済したことになる。
 弁済供託を行う場合も同様に考えればよいことが判る。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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