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東京借地借家人新聞


2006年1月15日
第466号

更新料支払特約の研究
最高裁の更新料判例を分析

 更新料の授受は慣習に多く頼っており、地域差が非常に大きいという理由から「借地借家法」においても更新料の規定は置かれなかった。更新料については法律には何の規定もない。従って法律上は、賃借人が更新料支払の義務を負っている訳ではないし、また賃貸人が更新料を請求する権利を持っている訳でもない。
 最高裁は更新料に関して「賃借期間満了に際し賃貸人の一方的な請求に基づき当然に賃借人に賃貸人に対する更新料支払義務を生じさせる事実たる慣習が存在するものとは認められない」(最高裁1978年1月24日判決)と判断した。予め更新料の支払約束が無い場合は賃貸人が賃借人に対して更新料を請求することが出来ない。 前記最高裁判決後、借地・借家に関して更新料支払合意が無い場合には更新料支払を認めた判例は存在しない。
 それでは、契約書に更新料支払特約がある場合、賃借人は更新料の支払義務を負うのか。
 更新料支払の理由として多くの裁判例で指摘されるのは、(A)賃料の不足を補充する趣旨(B)賃貸人の更新拒絶権・異議権放棄の対価(C)合意更新された期間は解約申入れの危険を回避出来るという利益の対価、以上三点である。
 更新料支払特約がある場合、契約を合意更新せずに、法定更新するとどうなるか。
 (1)「肯定説」更新料特約は契約自由の原則によって合意したのであるから合意更新は勿論であり、法定更新にも有効である。即ち、更新料特約が有る場合、賃借人は更新料支払の義務がある。
(2)「否定説」更新料特約は合意更新の場合にのみ有効であり、法定更新になった場合は効力を有しない。即ち法定更新した場合は賃借人に更新料支払の義務はない。
 借家の場合において、最高裁は(2)の立場から「本件建物賃貸借契約における更新料支払の約定は特段の事情の認められない以上、専ら賃貸借契約が合意される場合に関するものであって法定更新された場合における支払の趣旨までも含むものではない」(1982年4月15日判決)と明快な判断をしている。更新料支払特約は合意更新を想定したもので、法定更新には適用されない。法定更新した場合は賃借人に更新料支払の義務はない。

(東借連理事 野内茂)




更新で頑張った
板橋区大谷口の大沢さん
地代を月坪三百円値下げさせる
前回は地主が社長だったので言われるまま

 板橋区大谷口に住む大沢さんは、勤めている会社の社長が所有する土地に借地して40年が経過しようとしている。20年前には、地主が社長ということで言われるとおりの更新料を支払って更新した。定年退職し、年金生活の中で更新の時期を迎え、更新料の支払いと地代の値上げをいってきた。そのうえ、地主の代理人から更新に際して「更地価格×借地権割合×4%」を更新料として支払うよう通知書がきた。組合と相談したところ、特約に「更新料を支払って更新することが出来る」と記載されていた。同時に調べてみると地代が近隣よりあまりにも高いので地代の値下げを中心に交渉することにした。公租公課の三倍程度にしてほしいと請求したところ坪九百円の地代を六百円に値下げした。又、更新料についても若干の値下げをしてきた。地代の値下げで年間約十四万円の値下げになるため合意することにした。大沢さんは「組合と相談し、充分満足する合意が出来ました。これも組合のおかげです」と語った。




6名で更新
更新料を諦めて地代増額の
請求をされ、交渉で減額
大田区

 大田区羽田3丁目に居住する石井・小島・佐藤・須山(正)・須山(新)・田村(アイウエオ順)ら借地人6名が借地人組合に加入して20年余を経過する。前回の更新の時は、父から相続した息子より依頼された小田原の弁護士との交渉であった。当時周辺で更新料を支払う事例を見聞きする中、石井さんら6名の借地人は借地法や判例を学習の上、更新料不払いで意志を統一し団結を強めて交渉に臨んだのです。その結果、地主代理人弁護士は法律上更新料を諦めざるをえないが、地主を説得するので地代を増額してほしいと提案する。交渉は長引き小田原への通いは1ヶ月余に及んだが遂に、更新料請求は撤回され、地代も納得出来る増額内容で合意した。
 早いものです。あれから20年も経ちました。その間の数回の地代値上げは地主との直接交渉であったので、今回の更新についても地主との交渉と想定したが、組合を嫌がったのでしょう。地主は地元の不動産業者に依頼されたのです。業者は借地人らにではなく、組合に書面にて契約更新を打診してきた。直ちに、借地法第4条に基づき更新を請求することを通告すると、業者は更新料は頂けないだろうと請求せずに地代の増額を提示してきたのです。その内容は坪当たり60円の値上げであった。借地人らは更新契約書を手にすることが出来ればと了承するつもりであったが交渉で坪当たり50円で合意し12月に締結。嬉しい新年を迎えられました。




借地面積を騙す
渋谷区

 渋谷区本町で66坪を借地している本山さんは、昭和26年に管理人を通じて地代1ヶ月345円を払って土地を借りた。昭和30年に地主から建物収去土地明渡しで調停申立てられ、和解をして土地の面積を66坪3合5勺として、借地内の間口4尺5寸、奥行11間93の土地を共用通路とすることを確認した。
 昭和37年に自宅を改築することになり、本山さんの父親が当時地主の管理人に騙されて借地の内の通路部分を地主に返したとして借地面積を54坪で契約してしまった。
 しかし、地代はその後も全く金額も変わらず、本山さんは一貫して66坪で地代を支払いつづけてきた。
 今年に入り地主は貸地部分の測量を行い、本山さんの借地部分を分筆し66・1坪で登記した。
 ところが、最近になって地主は66坪の内以前契約した54坪分以外の12坪は貸していないと主張。54坪で測量しなおすといってきたが、本山さんは拒否すると、今度は地主は代理人を通して本山さんの借地部分の通路に置いてある車を撤去せよ建物を無断で増改築したと因縁をつけてきた。本山さんは嫌がらせに負けず今後も頑張る決意だ。




【借地借家相談室】

最高裁は特約の成立要件を制限し
借主の原状回復特約からの救済を図る

(問)2005年12月16日の新聞に「通常損耗は借主に負担義務なし最高裁が初判断」と大々的に報じられたが、どんな判断があったのか。
(答)東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」は「通常損耗や経年変化などの修繕費は、家賃に含まれているとされており、貸主が負担するのが原則です」と説明している。この原則に反して、これらの修繕費用を借主に負担させる特約を「原状回復特約」という。借主にとっては、この特約は家賃の二重払いを強いるものである。
 問題の裁判は通常損耗を含む「原状回復特約」の有効性に関して争われた。
 貸主である大阪府住宅供給公社は特約に基づいて、敷金約35万円から修繕費30万円を差引いた。借主は「契約時の説明が不十分で、特約に合意したつもりはない」として敷金約30万円の返還を求めた。
 それに対して最高裁は「通常損耗に係る投資資本の減価の回収は、通常減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払いを受けることにより行なわれている」と指摘し、通常損耗は家賃に含まれるという原則が確認された。この原則に反する「原状回復特約」が認められる条件は「通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、」そうでない場合は「賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」とされた。最高裁は、それらの条件が認められないと通常損耗を含む原状回復義務を賃借人に負担させることは出来ないという初判断を示した。その上で、敷金から通常損耗分を差引いた大阪府住宅供給公社に敷金を返還する義務があると認定し、その返還額を特定するために大阪高裁に差戻した。
 従来から下級審の判例は、特約が成立するためには(1)特約によって通常の義務を超えた修繕等の義務を負うことを認識していること(2)賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていることが必要であるとしている。意思表示理論を用い、「原状回復特約」に対して特約の成立条件に制限を設け、その要件を充たさない場合、特約は無効とされた。
 今回の最高裁判決は、これらの下級審の判例理論を追認したものである。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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