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東京借地借家人新聞


2005年10月15日
第463号
 ■判例紹介  

借地上の建物が火災による消失で滅失した場合の掲示と借地権の対抗力

 借地上の建物滅失後の掲示と借地権対抗力(東京地裁平成一二年四月一四日判決、金融商事判例一一〇七号)


(事案の概要)
  借地人の建物は、平成一〇年一二月三〇日、火事で燃えてしまった。借地人は、平成一一年三月一八日、借地借家法一〇条二項による掲示(消失建物及び建物建築予定等の必要事項)をしたが、何者かによってその掲示が取り外された。そこで、同年三月二五日、二六日にも同様の掲示をしたが、これらも取り外されていた。本件土地は、その間に売却されて、平成一一年四月二三日、被告に買われて所有権移転登記がなされてしまった。借地人は、被告に対して、借地権の確認を求める訴訟を提起したが、被告は、本件土地を買い受けた当時、本件土地上には建物がなく、建物が存在していたことを示す掲示もなかったので、借地権を対抗することができないと、争った。

(判決要旨)
 「法一〇条二項の規定は、建物が滅失して借地上に存在しなくなっても、滅失した建物の残影があれば、それからその土地上には土地利用権が設定されているとの推測が働き、建物登記簿も調べて借地権の存在を知ることができるとの考えから設けられたものである。すなわち、無効となった登記に一定の条件の下に余後効を認めるとともに、もはや建物が存在しない現地と建物登記を結び付ける方法として掲示を要求し、それに滅失建物を特定する事項を記載すべきものとした。法一〇条二項は、掲示上の表示と滅失した建物登記とが一体となって暫定的に借地権の対抗力を維持しえるものとした。
 借地上の建物の滅失により、掲示がなされるまで一時的にその借地権の対抗力は消滅するのであり、建物滅失後この掲示をするまでの間にその借地について第三者が権利を取得した場合には、その後に掲示を行っても借地権を対抗することはできない。また、法一〇条二項の定める掲示は滅失した建物の残影に他ならないから、掲示が一旦なされた後に撤去された場合には、その後にその土地について借地権の負担のない所有権を取得した第三者に対しては、借地権を対抗することができなくなる。第三者に対して借地権の対抗力を主張するためには、掲示を一旦施したというだけでは不十分であり、その第三者が権利を取得する当時にも掲示が存在する必要がある。」

(説明)
 借地権を第三者に対抗するには(認めさせるには)、建物が借地人名義で登記されていること、建物が存在することが必要。建物が火事、建替で滅失したときは、「滅失建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示」すれば、この掲示が建物の身代わりとなる。この掲示は新建物が建築されて登記されるまでの間継続させないといけない。掲示の保全につき、注意を喚起させる事例である。【再録】

(弁護士 川名照美)




納得できない設備
豊島区大塚の中村さん
欠陥が多発のマンション

修理請求は回答せず、更に水道代を3倍値上げ

 仲村さんは、豊島区大塚のマンションに住んで、十数年経過した。入居当時から、重要説明で、取り付けてあるはずのテレビのアンテナ配線がない、風呂場にシャワーがついていないなどのトラブルがあり、管理人を通して通知していた。一向にらちがあかないので、自費でもってケーブルテレビの配線をし、シャワー口の取り付けをするなどをしていた。しかしここに来て、水道代がそれ以前より、二倍から三倍の請求があるなど問題が多発し、管理人を通して話合いの請求をしていたが、納得できる回答がないまま過ぎてしまった。誠意ある回答がないので、家賃の不払いで対抗してきたが、家主の会社が倒産し、清算人に移行しているという話が浮上し、心配になって組合に相談した。
 組合では、仲村さんと相談し、「(1)家賃の未払いは明渡しの要因になるのですぐに支払いをする。(2)その上で、この間の経過を内容証明書で相手方に送付する」ことにした。抵当権が設定される前に入居しているのでじっくりと交渉することにした。




敷金で談判
不誠実な業者に若い独身女性が交渉で
全額返還を実現

中野区

 中野区本町3丁目アパートを借りていた町村恭子さんは退去にあたって不動産業者から全く本人に責任のない修繕請求をされ、、許せないと業者に直接談判をして、請求を撤回させた。町村恭子さんは自分と業者との談判を『プチポチ先生日記』というブログで公開。内容の一部を掲載する。
「えっ?!ちょっと・・・あの・・・。相談してみますので明日まで待ってください・」
 「2週間待っていたのに一度も連絡ありませんでしたね。もう待てませんし、私はただ、法的手続きをとることに了承してもらいたいだけです。
 1時間だけなら待ってもいいです。」「わっ分かりました・・・。」かなり動揺しているよ。
 その間に専門家の方と電話で相談。1時間後、再び入電。
 「・・・・・それではですね・・・。ハウスクリーニングだけでも・・。」「おいくらですか?」「3万8千円で。」「嫌です。それにこの間の担当者は請求連絡してきた時に3万5千円って言ってましたよ。」
 もう一回折り返し連絡となる。と「それでは、ハウスクリーニングの半額ということで・・。」「ちょっと待った!!どうして、私が法的手続きをとると言ったら、そんなに態度を変えたんですか?請求金額もどうしてそんなに変えられるんですか?!私はあの部屋をかなりキレイに使っていました。他の人にも同じようなことをしているのですか?!」という交渉の結果、敷金は全額返還された。




老朽化で明渡し
大田区

 大田区西蒲田6丁目所在、木造2階建1棟居宅を賃借していた湯沢さんが、家主代理人の不動産業者から明渡しを通告されたのは6月だった。
 しかも8月15日までにと強制する理由は、隣接家屋の所有者の敷地内に湯沢氏が賃借中の建物が越境し、水道管が埋設されている。隣接者は9月には新築の工事に着工したいとのこと。湯沢さんの亡くなった父親が無断で増築したことや、建物も築50年以上で老朽化の著しいことが家主らを強気にさせていた。
 無断増築は30年以上のことであり時効であること。水道管は使用中の人の同意が無い限り廃止できない旨を都水道局に確認。賃借人への予告期間が短い等を指摘した。しかし、建物の老朽化は深刻なので明渡しに応じるとして、金銭的補償と一定の猶予期間が必要と業者を説得。家賃の2年分と10月末の明渡しで合意。一時はどうなることかと心配したが、組合に感謝しますと湯沢さん。




明渡特約が新設された
更新契約を撤回させる
足立区

 足立区千住緑町に住んでいる佐伯さんは、2年前に現在の建物に入居した。一戸建ての2階部分をアパート風にしていて、庭もあるし住み心地満点で大変気に入っていた。
 しかし、8月の更新の時に、2年後に明渡す新設特約付の更新契約書を持って不動産業者が、平然とやってきた。
 とりあえず受け取って、契約書を作成したが、納得がいかず区の消費者センターに相談すると、組合を紹介された。
 組合で不動産業者に2年後明け渡しの契約書を撤回し、従来の契約書に戻すよう交渉したら「あ、分りました、ご本人が何も言わないのでいいかと思いました」と一件落着。 契約書を渡す前で良かったとほっとしている。




【借地借家相談室】

賃借人が破産した場合には家主は
賃貸借契約を解除することができるか

(問)賃借人が破産した場合、賃貸借契約はどうなるのか。
(答)〈賃借人が破産した場合〉
 
賃借人が破産するという典型的なケースは、借家人が店舗を借りて営業し、その経営が行詰って自己破産する場合である。破産しても何とか営業を続けていきたいと思っても、従来は賃借人が破産した場合は民法621条に基づいて賃貸人及び破産管財人は解約の申入れをすることが出来た。
 今までは、借家人が破産した場合、破産が契約の終了原因になり、解約の申入れには「借家法1条の2の『正当事由』を考慮する必要はなく、もっぱら621条が適用される」(最高裁1970年5月19日判決)。このように破産を理由にして借家契約の解除が出来た。他方、借地人が破産した場合は、解約の申入れには「賃借土地上に建物を所有している場合は、借地法4条1項但書、6条2項の『正当事由』が必要である」(最高裁1973年10月30日判決)としている。
 だが破産法の改正(2005年1月1日)により、破産しても再起出来るように挽回の機会を与える必要があるとして民法旧621条が削除された。その結果、賃貸人は破産したことを理由に借家契約を解除することは出来なくなった。従って、賃借人は賃料を支払っていれば賃貸借契約は継続することが出来るようになった。
 借地についても考え方は同じである。しかし借地の場合、例えば銀行から融資を受けて建物を建築し、銀行への支払いが出来なくなった場合、大概は借地人の建物を任意売却或は競売で資金の回収を図るので破産というケースは少ない。

〈賃料はどうなるのか〉
 賃借人が自己破産の申立をする。裁判所からの破産手続開始決定前に賃借人が延滞していた賃料については破産債権となり、賃貸人にとっては保護されない債権となる。従って賃貸人は延滞賃料を全額回収することは困難となる。
 破産手続開始決定後の賃料については財団債権となる。賃貸人は解除権を奪われた見返りに賃貸人には賃料の受領が財団債権の中で優先的に保障される。
 なお、破産手続決定後に、賃借人が財団債権としての賃料の不払・延滞等の事由があれば、当然、賃貸人から民法541条に基づいて契約を解除される。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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