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東京借地借家人新聞


2005年9月15日
第462号
 ■判例紹介  

自力救済条項があっても侵入したり鍵を替える行為を違法とした事例

 建物賃貸借契約書に自力救済条項があっても、建物内に侵入したり鍵を取り替える行為が違法であるとされた事例(札幌地裁平成11年12月24日判決。判例時報一七二五号)


(事実関係)
 1、賃借人X(原告)は平成10年7月、札幌市内のマンションの一室を賃借し妻とともに居住した。Y(被告)はこのマンションの管理会社である。
 2、賃貸借契約書には次のような特約があった。
 「賃借人が賃借料の支払を七日以上怠ったときは、賃貸人は直ちに賃貸物件の施錠をすることができる。また、その後七日以上経過したときは、賃貸物件内にある動産を賃借人の費用負担において賃貸人が自由に処分しても賃借人は異議の申立てをしないものとする」(本件特約)
 3、Xは、「部屋に雨漏りがする、かびが発生した」など苦情を述べたが、Yは、かびによる被害の弁償には応じられない旨回答した。
 そこでXは同年10月分から賃料の支払を停止した。するとYはXに対し、「督促及びドアロック予告通知書」、続いて「最終催告書」を送り付け、そこには、一定日時までに連絡がない場合には、以後何ら勧告することなくドアロックし部屋への立入りを禁止する旨記載されていた。
 4、管理会社Yの従業員は右日時の最終日、X夫婦が外出して留守の間、本件特約があることを根拠に、部屋に立ち入って、部屋内の水を抜き(水道管の破裂を防ぐため)、ガスストーブのスイッチを切り、浴室の照明器具のカバーを外すなどした上、部屋の錠を取り替えた。
 5、そこでXはYに対し、その行為は違法だとして損害賠償(慰謝料)の支払を求めて提訴した。

(判決)
 1、本件特約は、賃貸人側が自己の権利(賃料債権)を実現するため、法的手法によらずに、通常の権利行使の範囲を超えて、賃借人の平穏に生活する権利を侵害することを内容とするものである。
 2、このような手段による権利の実現は、近代国家にあっては、法的手続によったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる場合のほか、原則として許されないものというほかなく、本件特約は、そのような特別の事情がない場合にも適用される限りにおいて、公序良俗に反し、無効である。
 3、本件の場合には右の「特別の事情」は認められず、Yの行為は違法であるからXに対し慰謝料10万円支払うべきである。

(寸評)
 このような特約(自力救済)が入っている契約書はよく見かける。この判決の考え方はごく常識的であり、悪徳業者に対する警告として意味がある。【再録】

(弁護士 白石光征)




明渡で頑張った
大田区南蒲田の角張さん
建物の老朽化で明渡し請求
協議の結果、補償と期日で希望どおり合意

 大田区南蒲田1丁目所在、木造二階建共同店舗兼居宅の一角を賃借し、天ぷらの店を営んでいた角張さん。高齢のため廃業してしばらくした、昨年秋ごろ建物の老朽化理由に家主は、建設業者を介して明渡し求めてきた。
 建物の相当古い現実を踏まえて交渉に応じたが、補償金は出し渋り明渡し期日は業者の都合での強制で進行せず、4月や6月の期日を押し付けられる状況となって、相談先が見つかり6月末入会。
 組合は業者に正当性ないにも係わらず、明渡しを求めるならば角張さんの希望に応えることが望ましいと伝え、賃料の約30ヵ月分の補償金と明渡し期日は9月末との組合提示の条件で合意した。
 2日間という短時間の交渉で合意に至ったことは、業者が建設工事着工の遅れを懸念したことと、借家人に対するこれまでの対応を反省してのことだろうと思います。
 こんなに早く自分の希望が叶えられてうれしい。「組合はほんとに頼りになる。組合をもっと早く知っていればよかった」と角張さんの一言。




地上げが多発
大阪の地上げ屋を使って
明渡しや底地の押売りが横行

武蔵野市

 東京が本社で大阪に支社がある不動産会社「東京都市開発株式会社」が、大阪の地上げ屋を使って、都内の借地やアパートの物件を買いまくっている。
 同社のホームページで、「底地買います」、「アパート買います」と宣伝している。宣伝文句は「資産の買い替えなど、お考えの方相続対策で底地売却をお考えの方、面積を問いません。借地権のついたまま現状で買取をいたします」と、メールで相談と無料査定を呼びかけている。この会社と組んでいるのが大阪の地上げ業者「三和住宅」で、都内の各地の組合に借地権の買上げや底地の押売、借家の明渡しの相談が寄せられている。
 武蔵野市吉祥寺南町でも、借地人の村上さんは今年の3月に前地主が東京都市開発に売却。前地主から「ご挨拶」の手紙で「突然ではございますが、貴殿に賃借戴いておりました不動産につき、今般事情があって下記の方へ売り渡したので本書をもってご通知致します」といってきた。その後、新地主の東京都市開発は今後の交渉と地代の受取りを三和住宅に全権委任しているの一点張りで、地代の振込も拒否してきた。やむなく、村上さんは地代を組合に預け、交渉は全て組合に任せた。
 三和住宅は、4月から村上さんの地代を毎月組合に集金に来ている。東京都市開発は借地権の買取を主張し、路線価格の60%の条件を提示してきた。村上さんは、高齢で病気のお母さんの介護をしなくてはならいない状態で、移転することは不可能であると借地権の売却を拒否した。




更新料を断わる
豊島区

 豊島区JR大塚駅より歩いて数分のところに親の代より借地している仲村さんの所に地主から借地の更新の話があったのは昨年のことであった。二十年前の更新時に支払った更新料より高い三百万円を請求され、しかも、地代の値上げを請求された。知合いの組合員さんから紹介されて組合に入会した。組合から更新料の支払いについてその法的根拠、及び算出根拠を求める手紙を出したところ、回答に窮して、私道の駐車問題などで財産権の侵害だなどと称して話合いがつかないならば裁判だと主張してきた。また、前回更新料を支払ったのだから、暗黙の了解があったと解すべきだ主張してきた。組合では、仲村さんに、先の新聞に載った更新料支払いの了解についての判例紹介などをもとに貸主に反論することを提案した。この間、数度にわたる通知書のやり取りをしてきた仲村さんは「組合に入って、このような問題でも安心して相談できる。本当に助かります」と話していた。




地主がついでの値上げ
8ヶ月の交渉して断念させた
足立区

 足立区伊興町に住んでいる中田さんは、更新の時期でもないのに更新料の請求を受けた。びっくりして契約書を確認したらまだ5年ある。契約書のコピーを手に地主宅に。
「あら、失礼、じゃついでだから地代上げてよ」と。
 ついでに地代の値上げを要求されては困りますと、きっぱり断って帰ってきた。
 翌日、改めて値上げ要求してきたので、評価証明書をとり、話し合いすること8ヶ月。やっと値上げを諦めた。
 更新時期を忘れるような地主ではないのに、こんな形で地代の値上げに話を持って行くやり方に心底腹が立った。
 安くない地代と確信したので絶対妥協しないと思って頑張った。今気分爽快。




【借地借家相談室】

契約の更新に際し、契約条件の悪化を要求されたら法定更新を選択する

(問)3年契約で店舗を借りています。5月末日で契約期間が満了になります。2月に不動産会社が「6月の契約から3年の定期借家契約で」と言ってきました。どうしたらいいでしょうか。
(答)営業用店舗は2000年3月1日以降の契約更新の場合、合意があれば定期借家契約への切り替えは出来る。定期借家契約を拒否するには賃借人としては法定更新に持込み今まで通りの普通借家契約を続けるのが営業権を守る安全策であろう。
 以下の(1)(2)は借地借家法の法定更新規定の要旨である。
 (1)期間の定めのある借家契約で期間満了の1年前から6ヶ月前(法定通知期間)までに賃貸人が賃借人に対して、更新拒絶の通知または条件変更の通知をしていなかった場合は、従前の契約と同一の条件で自動的に借家契約が更新され、借家関係は継続される。尚、更新拒絶の通知をするには、正当事由が必要である(借地借家法28条)。
 (2)またその通知をした場合でも、期間満了後、賃借人が継続して建物を利用していることに対して賃貸人が遅滞なく異議を述べないと(1)と同様に従前の契約と同一の条件で自動的に更新される(借地借家法法26条)。
 (1)と(2) は当事者の意思の如何に拘らず、法律上当然に借家契約が更新されるので、これを「法定更新」という。
 相談者の場合は、不動産会社が「法定通知期間」内に適法な更新拒絶の通知を何ら行なっていないので、借家契約は既に従前の契約と同一条件で「普通借家契約」として法定更新されることが確定される。このように期間満了の6ヶ月前までに通知をしていないと、その時点で既に契約更新がなされることが法的に決定される。この更新を賃貸人が覆すことは出来ない。相談者は不動産会社から繰り返し定期借家契約への切替を執拗に要求されるであろうが、「法定更新は法律上自動的に更新するもので賃借人の回答を必要としない」(東京高判1955年1月21日)のであるから、期間満了の5月末日に法定更新が確定するまで、ただ沈黙していればいい。
 法定更新後の借家契約は期間の定めのないものとして扱われるので原則的に更新問題は起こりえず、定期借家への切替や更新料で揉めることもなくなる。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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