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東京借地借家人新聞


2005年8月15日
第461号
 ■判例紹介  

借地法定更新で更新料支払いの慣習は認められないとした事例

 土地賃貸借契約の法定更新の場合でも更新料の支払義務があるとする慣習は認められないとした事例(平成一四年一月二四日、東京地方裁判所民事第四五部判決。未掲載)


(事案)
 Xは、東京都墨田区内に土地四二八・○八平方メートルを所有し、これをYに建物所有の目的で賃貸していた。
 右契約が平成一二年一○月三一日の経過により満了するため、Xはその一○ヶ月前に期間満了の通知をした。
 YはXに対し、契約更新の希望と更新の際の条件の提示を要請した。
 Xは堅固建物の存在を前提として、契約期間を三○年とする場合の更新料を二○四○万九九六三円(一平方メートル当たり四万九一二五円)と提示。
 合意に達しないまま、平成一二年一一月一日、法定更新となり、XはYに対し、賃貸借契約の更新に当たっては、合意更新であると法定更新であるとを問わず、更新料の支払いが条件になることは、現在では社会的な慣習となっていると主張して、更新料二○四○万九九六三円等の支払を求めた事案。Xの請求棄却。

(判旨)
 「YがXに対して本件賃貸借契約更新の条件の提示を要請したのは、YがXの条件の提示を見て、これに応じるかどうかを検討しようとしたものであって、更新料の支払義務を認めたものということはできない。……また、賃貸借契約の法定更新の場合でも更新料の支払義務があるとする慣習は認められない」

(寸評)
 法定更新の場合に、更新料支払の義務があるとする慣習はないとするのが判例の立場であることは、周知のこと。それにもかかわらず、依然として、更新料請求の訴訟が提起されるのは、更新料の支払拒絶を明言せずに、条件交渉をする賃借人が多いことをあらわしている。更新料交渉について注意を喚起するために紹介した。 【再録】

(弁護士 田中英雄)




借地で頑張ってる
三鷹市新川の佐藤さん
権利がないと定期借地を強要
共有借地人が勝手に借地権を地主に譲渡

  佐藤さんの祖父は戦後間もなくお寺の先代の住職からこちらに住むよう言われて三鷹市新川に移り住んだ。当時のことで契約書もないまま借地契約した。その後、佐藤さんの母親も祖父から呼ばれて家を建て昭和25年頃引っ越してきた。その後、祖父も祖母も亡くなり、借地権は叔父が引き継ぎ、地代は半年毎相互にお寺に持参していた。
 祖母が亡くなって以降は、叔父は何かにつけて佐藤さん親子に意地悪をするようになった。
 というのも、叔父の家は佐藤さんの裏で私道も1メートル20センチほどしかない。地代の領収書も渡してくれないこともあった。
 昨年、叔父は代理人を立て地主と交渉し、借地権を地主に売り渡してしまった。
 お寺である地主は、最近になって佐藤さんに対し借地権はないからと、定期借地権契約を結ぶので坪当たり10万円の保証金を支払い、地代も坪100円増額するよう請求してきた。佐藤さんは、地主の請求には断固として応じない決意だ。




更新で難くせ
更新料・相続の書替料・30年
間の差額地代と利息を請求
台東区

 台東借組の組合員である田中さんは地代の供託を既に20年に亘って続けている。これまで地主との揉め事は組合との二人三脚で何とか切り抜けて来た。今回の借地の更新に際して地主は(1)更新料の支払いと(2)名義書換料を請求している。加えて(3)20年間の差額地代+利息を請求している。更に(4)前回不支払の更新料も再度要求している。
 田中さんは組合に対応を相談し、組合役員の立会いの下で地主と折衝することになった。地主側も不動産業者を加えてガードを固めている。交渉は約4時間に亘って行われた。
 更新料に関しては更新料支払の合意が無いので請求の根拠が無い。仮に支払の約定が前の契約書にあったとしても最高裁の判例は「更新料支払の約定は、合意更新される場合に関するものであって法定更新された場合における支払の趣旨まで含むものではない」(1982年4月15日)と明言している。従って(1)と(4)に関しては前回・今回とも法定更新され、最高裁の判例から更新料支払義務が無いことは明らかである。(1)に関しては母親の死亡に伴う借地権の相続であるから名義書換の問題は発生しない。名義書換料の要求は不当なものである。(3)は地主の一方的な主張であり、借地借家法32条の規定に従った取扱いをしてもらいたい。地代等は民法169条規定から5年で消滅時効となり、既に15年分が消滅時効となっている。
 地主は説明が間違いでないことを不動産業者に確認して渋々ながら不当請求を全面的に撤回した。




借地処分で合意
大田区

 大田区西糀谷2丁目に宅地約50坪を賃借中の小松さんは、無断増改築や下水道工事問題を理由に係争中となり、昭和45年ころから地代の供託となった。同年55年になると地主代理人の不動産業者と組合役員との明渡し交渉は長期の時間を要した。思うようにならない地主は、弁護士を立てて組合役員を介しての交渉を拒絶。地代の供託は続行となりそれから30余年の歳月に亘る、小松さんの奮闘は貴重な経験となった。
 係争の当事者は時間の経過とともにその遺産はそれぞれその子供らに引き継がれ、これまでのわだかまりも無く地主の相続人らより地代受領する旨の連絡で和解へと進む。
 地主らは、遺産の分割は土地の処分すること以外に方法はないと、協力を求められた小松さんは、建物の老朽化が著しいことを考慮し組合役員立会いの下に借地権の処分に同意した。今、不動産業者を介して価格を検討中で年内には完了させたいと奮闘している。




競落した家主から明渡請求
豊島区池袋

 池袋に住む有吉さんは戦後まもなくこの地に借家して住むようになった。当初は景気もよくご主人の仕事も順調でなんの心配もなく生活していた。バブルが崩壊し、ご主人が亡くなった頃から、歯車が狂いはじめ、経済的に生活は困難になった。同時に、バブル崩壊の影響で借家も競売にかけられてしまった。競売で落札した新しい家主は、有吉さんに明渡しを求めた。相談するところがなく近くの不動産屋にお願いしたが、話合いがつかず、家賃を供託することになった。しかし、供託の手続きその他で、高額な手数料を請求され、困って組合に相談に来た。組合から新家主に話合いを申し込んだところ「すぐに立ち退きを請求している訳ではない」との回答を得た。一軒家のために家賃も高いので、区の福祉課とも連絡をとって次の引越先を探すことにした。




【借地借家相談室】

家賃の減額請求をしても勝手に主張する金額で支払うのは危険である

(問)家賃15万円の賃貸マンションを借りている。最近、隣の入居者が月13万円の家賃で借りていることを知った。同じ間取りであるにも拘らず、2万円も安い家賃というのは納得が出来ない。月末に13万円の家賃を持参し、家主に家賃の値下げを交渉したが、家賃は受領して貰えなかった。家主に家賃の受領を拒否された時は供託をしないと家賃の不払で契約を解除されると聞いたが、どうしたらいいのか。
(答)民法494条「供託」は「債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済することができる者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる」と規定している。借家人は賃料額を法務局に供託して措けば債務を履行した(家賃を支払った)ことになる。
 家賃の値下げに関して、借地借家法32条は「建物の借賃の減額については当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる」と規定している。即ち、借家人から家賃の値下げを請求された場合、裁判で適正な家賃が確定するまでの係争期間中の家賃は、家主自身が相当と認める額を借家人に請求することが出来る。
 それでは家主が「相当と認める額」に関しては、東京地裁1998年5月28日判決で「裁判が確定までの間は賃借人には『賃貸人が相当と認める額』の賃料支払義務がある」として、その賃料は「特段の事情のない限り、従前の賃料と同額であると推定することが相当である」としている。借家人が家賃の値下げ請求をしても、借家人は家主が「相当と認める額」(家賃15万円)を暫定的にせよ係争期間中は支払わなければならない。家主の請求する額を下回り、自己の主張する家賃額(13万円)の供託を継続した場合、債務不履行を理由に契約を解除され、建物明渡を要求される恐れがある。
 従って相談者は納得がいかないだろうが従前の家賃額を支払い、借地借家法32条3項に基づいて、家主に配達証明付き内容証明郵便で家賃の減額請求を行う。その後、簡易裁判所に民事調停を申し立てて正当な家賃を決定して貰う方法を考慮すべきである。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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