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東京借地借家人新聞


2003年7月15日
第436号
 ■判例紹介  

賃料を1ヵ月分でも滞納したときは無催告解除の特約の有効とする限度

 「賃借人が賃料の支払を1ヵ月分でも滞納したときは、催告なくして解除できる。」との特約が有効とされる限度(最高裁昭和43年11月21日判決、判例時報542号48頁)

(事案の概要)

 賃貸人は、昭和37年3月15日、賃借人に対し、建物を賃料月額金一万五千円、毎月末日翌月分支払の約で賃貸し、同年9月14日、賃貸期間を昭和40年9月13日までと定めたが、その賃貸借契約には、賃料を1ヵ月でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる旨の特約条項があった。
 ところが、賃借人が昭和38年11月分から同39年3月分までの賃料の支払を怠ったので、賃貸人は前記特約条項に基き無催告解除した。

(判決)
 最高裁判所は、「家屋の賃貸借契約において、一般に、賃借人が賃料を1ヵ月分でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項は、賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば、賃料が約定の期日に支払われず、これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である。したがって、原判示の特約条項は、右説示のごとき趣旨において無催告解除を認めたと解すべきであり、この限度においてその効力を肯定すべきものである。」と判示した。

(評論)
 建物賃貸借契約において、特約条項が定められる例はしばしば見られるところである。それは、賃借人が新たに借りる立場上契約締結に当たって特約の削除を求めることが困難なことに起因することも多い。その結果、両当事者間で特約条項について合意が成立したことになるが、合意したからといって、全ての特約条項が有効となるわけではない。借地借家法の強行規定に反する場合は無効とされるし、本件特約条項のように強行規定には反しないまでも、信義則上賃貸借契約の継続を期待することができないような状態となったことを要する趣旨と解されることもある。
 本件特約条項は、その意味で、例文として全く無効というものではなく、有効とする上での限度を設けられているということができる。
 実務的には、賃貸人から前記特約条項に基いて無催告解除された場合には、賃借人は、放置することなく、あらためて賃料を提供し受領拒否された場合には供託することが最も適切な措置といえる。

(弁護士 榎本武光)




【借地借家相談室】

借地権を売却したいのだが無断譲渡
だと言って地主は承諾してくれない

(問)借地上の建物の売却を不動産屋に依頼した。後日、建物譲渡の合意が成立し、売買契約書を作成した。手付金の授受及び所有権の移転の仮登記も終了している。地主は無断譲渡だと主張して、未だに地主の承諾が得られていない。
(答)借地契約に無断譲渡を制限する特約が無くても借地人は建物を譲渡する場合、借地権の譲渡について予め地主の承諾を必要とする(民法612条1項)。承諾を得ずに借地権を譲渡すると地主は、無断譲渡を理由に借地人との間の契約を解除することが出来る(民法612条2項)。契約が解除されると借地人は地上建物を収去して土地を明渡す義務がある。また地主が借地人に対して契約を解除しない場合でも、譲受人は無断譲渡ということで借地権の取得を地主に対抗出来ない。従って、譲受人は土地を不法占拠していることになり、地主から直接建物収去・土地明渡の裁判を申立てられることもある。明渡請求に対して譲受人は地主に建物買取請求権を行使することが出来る(借地借家法14条)。しかし借地権価格の全部を回収出来る訳ではない。建物買取価格は借地権価格の20〜30%位であり、譲受人には不利益になる。
 このようなトラブルを回避するためにも、予め承諾を取得しておく必要があり、それが出来なければ、地主の承諾に代わる許可の裁判を求める申立(借地借家法19条)をする義務がある。申立の時期は「譲渡」の前になされなければならない。譲渡とは建物の所有権の移転の本登記又は引渡を受けて土地を使用する状態と解されている。売買契約を既に締結している場合でもその履行前に申立をしないと「不適切な申立」として却下される。
 相談者は仮登記の状態なのでまだ代諾許可の裁判の申立は出来る。この申立をすると裁判所が土地の改定や財産上の給付を条件に地主に代わって譲渡の許可をする。その場合譲渡許可の承諾料は借地権価格の10%を基準額としている。残存期間が5年以下の場合は基準額より2〜4%程度増額される。但し申立をする場合、譲渡する「第三者」は特定されていなければならない。また地主は「第三者」に優先して買受ける権利を有している。尚、許可後の6ヶ月以内に建物を譲渡しないと効力は失われる。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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