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東京借地借家人新聞


2003年5月15日
第434号
 ■判例紹介  

マンション一階の居酒屋の換気ダクトの撤去と深夜営業が禁止された例

 マンションの一階を区分所有者から賃借した者が居酒屋を営業し、厨房換気ダクト、造作、看板等を設置し、深夜まで営業を行なった場合、管理規約に違反し区分所有者の共同の利益に反するとし、管理組合の賃借人に対するダクト等の撤去請求、深夜の営業禁止の請求が認められた事例。(平成一三・六・一九神戸地裁尾崎支部判決。判例時報一七八一号一三一頁以下)

(事案の概要)

 Xはマンションの区分所有者を組合員とする社団。前記記載の事実に対し、Y(居酒屋経営者とその区分所有者の二名)に対し建物区分所有等に関する法律五七条等に基づき、ダクト等の撤去、深夜の営業禁止、損害賠償等を求めた。Yは、自分の行為により区分所有者に迷惑をかけたとしても、それは受忍限度内であり、共同の利益に反するとは言えず、Xの請求は権利の濫用であるとして争った事案。Xの損害賠償の一部を除いてXの勝訴。

(判決要旨)
 「本件マンションの住民が本件ダクト等が店舗南側に設置されていることによって、本件ダクト等から排出される油煙や臭気のため迷惑・不快感を示していることが認められるのであって、本件ダクト等の設置は区分所有者の共同の利益に反していると認めることができる。」「以上からすれば○○○○の深夜一時までの営業は区分所有者の共同の利益に反するものといえる」「Y2(居酒屋経営者)が本件管理規約を軽視し、他の区分所有者の利害を顧慮することなく、管理規約違反の本件造作・看板等は区分所有者の共同の利益に反するというべきである」

(寸評)
 建物区分所有法第六条では、区分所有者または占有者(賃借人など)は、区分所有者の共同の利益に反する行為を禁止しており、これに反した場合は、違反行為の停止等を請求することができる(同法第五七条)。問題は、共同の利益に反する行為とはいかなる行為であるか。これまで多くの判例がある。本判決は当然。区分所有権の財産的保護だけではなく、居住者の住環境の保護やプライバシーの保護など多様な視点からの判断が求められるのであり、今日的な時点での社会通念に反する行為は、問題になり得るといえよう。民間賃貸住宅の場合も同じことがいえよう。

(弁護士 田中英雄)




明渡で頑張ってる
大田区東糀谷の倉田さん

建替えで店舗の明渡請求
法定更新を通知し、2年間家主沈黙


 国道131号線(産業道路)と環八の交差点。京浜急行線が羽田空港に乗り入れのため、立体化されて地下の駅となった大鳥居駅から徒歩1分の大鳥居商店街通り中程(大田区東糀谷三丁目)にある、木造二階建マーケットの一角で店舗を賃借して、生花販売を長年営んで来た倉田さんは、平成12年11月下旬に明渡請求をされて組合に相談した。
 建物はまだ十分使用出来る事を確認し、引続きこの場所で商売を続けたいと家主に伝えた。その後、2年余が経過しているが更新契約書は取り交わされず、法定更新の状況なので従前と同一の条件で今日に至っている。
 家主は空家となっていた店舗を賃貸し、建替えは遠のいたようである。長期不況による現実的な厳しさと倉田さんの自信に満ちた権利の主張と商売に対する熱意が、家主の意気込みを挫折させたのではないだろうか。
 大鳥居にお越しの際は、是非庶民的な大鳥居商店街の倉田生花店「清花園」に立ち寄って下さい。
 奥さんの笑顔と綺麗な花が癒してくれます。




敷金全額戻る

一年間で退去したのに床と
天井と壁の全て張替え請求

国分寺市

 千葉県の佐倉市に住む佐々木裕香さんは、200年4月に国立大学に入学。大学生協の紹介で学生専門の不動産仲介業者の(株)学生情報センターの仲介で国分寺市本多の共同住宅に入居した。
 中央線国分寺駅から徒歩13分のワンルームマンション5・51坪で家賃は月額52000円・共益費8000円、契約金として入館料15万円、敷金12万円、紹介手数料5万4180円、鍵交換費用1万500円、NASICCLUB1万8900円、町内会費600円などで全て合計で41万8380円を支払った。
 なお、この契約は1年契約で佐々木さんは、1年後の契約更新で更新入館料15万円、更新手数料5250円、NASICCLUB1万8900円、町内会費600円合計17万4750円を支払って更新した。
 佐々木さんは、家賃や契約更新の費用がかかるので自宅から通学することに決め、昨年10月に退去した。
 10月17日に業者が立会いを行ったが、補修箇所をチェックし後日精算明細書を送ると言われた。
 今年の1月に送ってきた清算書をみてビックリ。清掃料以外にも居室の床・天井・壁が全て張替えで合計9万3449円、敷金は2万6551円しか戻ってこない。
 佐々木さんは紹介を受け組合に相談。
 組合では早速学生情報センターと交渉したところ、佐々木さんの要望通りの金額を返還すると返答。少額訴訟の手続きを取ることなく早期に解決した。




家賃25%値下げ

豊島区 

 豊島区池袋駅から十五分、住宅地の中にある中華料理店を経営している伊藤さんは、バブルの頃に大幅な値上げをされ、その後十年間も賃料の値下げをせずに商売をしていた。しかし、この不況のあおりと年齢的にも現状の賃料では商売していけないと判断し、店を閉店する事にした。
組合員でもある伊藤さんは、家主に店を閉店することを通知した上で、家主がどのような対応をするかで最終的な判断をすることにした。通知して二週間後、家主からは店舗付住宅を買取ってくれと言う話が最初持ち込まれた。しかし、建て直しをした際には大幅な面積の縮小になるので断ったところ、賃料の大幅な値下げに応じてきた。現行の二十五パーセント減額を提案してきた。家主も伊藤さんが出て行った場合、今後店を貸す当てがないために賃料の大幅な減額して引き続き借りてもらったほうが得策と判断したと思われる。伊藤さん「瓢箪から駒。出来る所まで頑張ります」と語った。




店舗の更新で家主嫌がらせ

荒川区西尾久

 荒川区西尾久で家賃12万円の店舗を借りラーメン屋を営んでいる佐藤さんは、11年9月末に3年毎の更新を迎えたが、条件で折り合いがつかず法定更新した。しかし、家主は契約書を作成していないから賃貸は消滅した、自分の老後に使用するから直ちに店を返せと店のシャツターの鍵穴にパテ入れ開かない様にしたり2階食材置場に通ずる階段入口にクサリで施錠する等、度重なる嫌がらせを受けた。佐藤さんは昨年7月に家主に対して賃貸借確認の訴訟を起こした。裁判中にも突然家主からの依頼でと店のトタン屋根を剥しに来たが営業中であり承諾してないと追い返した。今年2月末に裁判の結果が出て、法廷更新が認められ賃貸借関係は成立しているとの判決を得たが、家主は抗告した。佐藤さんは戦う決意。




【借地借家相談室】

本当の地主が誰なのか判然としない
ときは地代を誰に払ったらよいのか

(質問)地主が経営するスーパーが経営不振で閉店した。その後、地主から土地を買ったという人間が現れて、来月から自分の方に地代を支払うようにと言って来た。しかし、地主はまだ所有権は自分にあるので今まで通りに支払うようにと言っている。どちらに支払ったらいいのか。

(回答)賃貸不動産が譲渡された場合、その譲受人は、どのような要件を具備したら賃借人に賃料を請求できるのか。民法177条(不動産に関する物件の変動は、不動産登記法に定められた登記がなされて初めて第三者に対抗することができる)は不動産の物件変動を登記によって公示するという考え方を採用し、登記は対抗要件であるとしている。
判例は賃貸不動産の譲受人は所有権移転登記をしない限り賃借人に対して所有権の取得、賃貸人たる地位の承継を主張することが出来ない。賃借人は民法177条の第三者に該当し、譲受人の移転登記がない場合には賃料請求をすることが出来ない(最判1974年3月19日)。これは所有権移転の事実を確実にして、賃借人の二重払いの危険を回避するために登記を保護要件としている。これによって賃借人の保護をしている。即ち、「登記簿上の所有名義人は反証のない限り当該不動産を所有するものと推定される」(最判1959年1月8日)。登記されていない物件の変動は無視しうるという形で取引の安全が保障され、取引の迅速化が促進される。
 借地人の取りうる態度として第一の方法は登記簿を調べて登記上の権利者に支払うということになる。即ち、譲受人が移転登記を完了していれば新所有者に支払う。移転登記がなされていなければ、地主に支払えば、債権の準占有者(民法478条)へ有効な弁済をしたことになる。
尚、前記1974年最高裁の判例では、新所有者が賃借人の賃借権を否定して明渡を請求する場合にも、登記を具備する必要があるとしている。
 第二の方法は、民法494条供託原因による「債権者の確知不能」として供託する。今回のように債権譲渡の通知を受けたが、借地人が賃料の支払の相手が誰なのか断定出来ない場合、「債権者が確知できない」との供託事由により供託することが出来る。供託に関しては各組合へ問合せて下さい。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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