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東京借地借家人新聞


2003年4月15日
第433号
 ■判例紹介  

店舗等を目的とする賃貸借契約の保証金は敷金の性質がないとした事例

 店舗等を目的とする建物賃貸借契約の際に保証金として支払われた賃料の約二二・五ヶ月分に相当する金員が敷金としての性質を有しないとされた事例(大阪高裁平成一四年四月一七日判決、判例タイムズ一一〇四号)

(事案の概要)

 賃借人は、昭和五九年三月、ショールームの使用目的で、契約期間一〇年、賃料四四三万円、敷金一二八三万円、保証金九九七七万円の約定で賃借した。
 保証金については、一〇年間据置のうえ翌年から五年の年賦で返還するが賃貸借契約日から五年内に解約したときは二〇パーセントの解約金が控除されるという特約が付いていた。
 賃借人は、昭和六〇年八月、賃料を支払えなかったので、賃貸借契約を解約して建物を明渡し、敷金の返還を受けた。しかし、保証金は据置期間未到来のためにそのままになっていたところ、国税が保証金返還債権を差し押さえ、家主に対して、保証金九九七七万円の取立を請求した。
 家主は、賃借人に対する未払い賃料、期間内解約による違約金、共益費、電気料金、現状回復費等の清算が済んでないので、保証金返還額は一〇六六万円分しか残っていないと争った。そこで本件保証金は、敷金のように賃貸契約上の債務を清算すべき性質のものなのかどうかが問題となった。

(判決要旨)
 「本件保証金が差し入れられたのは、本件建物の建築資金が必要な時期であって、本件保証金は多額であるほか無利息で返還する約定があることからすれば、銀行からの借入金に比して金利分の節約ができることから賃貸人にとって有利であることが明らかであるから、通常であればこれを建設資金などに充当すると考えられるし、賃貸人がこの保証金を他に使ったことを客観的に説明しない以上、本件保証金は本件建物の建設資金に充当することを主目的として差し入れられたものと推認すべきである。
 本件保証金の敷金としての担保機能の有無について検討する。本件契約では、敷金と保証金を別個に規定し、敷金については、賃借物件明け渡し後債務完済を確認したときに返還する旨規定しているのに、本件保証金については本件据置規定が存在するだけで、賃貸借終了時の返還義務の有無については何ら触れていないので、敷金と同様の担保的機能を有し賃借物件の明け渡し時に契約上の債務と清算した上で賃借人に返還すべきものであるとはいえない。」

(説明)
 保証金の性質については、建設協力金、敷金、即時解約金、権利金のいずれか、又はこれらを併せ持ったものなど、さまざまであり、契約文言、金額、差し入れの趣旨などから、賃貸借当事者間の意思を解釈して結論される。本件では、金額が多額あること、返還時期が契約終了と無関係であること、使途が建築資金であること等から、敷金ではないとされた。

(弁護士 川名照美)




更新料で頑張る

福生市福生の新條さん
地代も現行の倍額値上げ
値上げがだめだと明渡しを請求

 JR青梅線福生駅から約200メートル北西に向かった福生市福生でクリーニング取次店を営業する新條さんは、昨年11月以来地主の代理人の不動産業者と協議が始まった。当初土地の売買の話があり坪当り30万で売るという話を持ち出しておきながら、地主は坪40万でないと売らないと言い出し、結局地主は気が変わったと言って売買の話は不成立に。更新の話に移り、地主の条件更新料300万円で地代を現在の倍額年30万円に値上げすると伝えてきた。新條さんは今年に入って組合と相談し、更新料と値上げについて地主側の言いなりにはならないことを打ち合わせた。
 新條さんの態度が変わると更新料250万円まで下げてきたが、新條さんはきっぱり拒否。不動産業者は「地主は弁護士を立て裁判になったら200万から300万かかる。店の前に看板を立てられて商売ができなくなる」と脅してきた。その後直ぐに弁護士から契約解除の脅しの内容証明郵便がきたが、組合から拒否する回答を出したところ、その後何も言ってこなくなった。




困難な借地処分

年金生活で地代支払も困難に高
齢者の借地返還は深刻だ
台東区

 台東区谷中の中川さんは、83歳で身寄りのない一人暮らしである。年金生活で蓄えもないので建物の修理を怠っている。雨漏りもある。現在は地代も滞ることなく支払っているが、今後もこの調子で支払を続ける自信はない。ましてや3年後の更新の際、借地更新料の支払は殆ど不可能である。そこで地主に建物付で借地を返還したい旨を伝えた。その際、建物を買取って欲しい旨も付け加えた「買取るなど冗談じゃない。建物を取壊して更地にして土地を明け渡すというのであれば、申出を諒承する」と言われた。
 中川さんは、地代の支払が出来なくなる前に家屋を処分して老人ホームへ入所したいと考えているが、そのためにも何か旨い解決策はないかと組合へ相談してきた。地代の支払に困って土地を地主に返還するのだから、解体費用など無理な話である。地代を滞納すれば賃料不払で契約解除となり解体費用は借地人に請求される。
 解決策は建物を第三者に賃貸して家賃収入の一部で地代を支払い、借地契約を存続させる。取り敢えず貸すにしても修理代金をどうするかという問題がある。次は、借地権を第三者に譲渡する。この場合は地主へ承諾料を支払わなければならない。非訟手続きで裁判所の代諾許可を得る場合でも借地権価格の約10%の承諾料は必要である。又借地権の買い手を見つけるのにも苦労する。一人暮らしの高齢者には、借地の処分は深刻な問題である。




底地の買取で合意

豊島区

 豊島区で借地して商売をしている工藤さんは、十年以上前に借地の更新料問題で地主との争いで組合に入会した。その後、不燃化防火地域ということもあり、堅固な建物に建替える必要が出て来た。建替え問題での地主との交渉は予想外にも簡単に決着した。それは、将来的には底地を買い取るという念書で合意したのである。昨年末に、地主から底地を買い取ったと言う業者がきて、底地を買い取って欲しいと言ってきた。念書も作成してあったので買い取るということでは依存がなかったが、相手の業者と交渉する点で不安があったので組合が窓口となる事で合意した。業者が提示した価格と本人の希望価格との間では坪当たり五万以上の差があったが、交渉の結果、双方の納得できる価格で合意し、この四月以降に正式な売買契約書を作成する事になった。工藤さん「組合に入会していたおかげで安心して売買交渉もすることが出来ました」と語った。




大幅値上げを断わる

家主慌てて撤回、現行額受領
足立区

 足立区古千谷の亀田さんは、約30年この地でたばこ屋を営んでいる。小さい借店舗だが、子供も一人前にして今は静かに暮らしている。
 更新が来る度に家賃を値上げされ、後から借りた人より高い家賃になり、悔しい思いをしていた。今年の一月が又更新の時期になり、家賃を一万円値上げ、更新料2ヵ月分と不動産屋の手数料と合計すると頭が痛くなる程だった。
 組合に加入し、全部断ると「じゃ二年後は貸さない」との内容証明郵便がきた。亀田さんは、はっきりと返事を出し、受取らない家賃は供託する事に腹を決めて、実行寸前になって「今まで通りでいいから契約書を作って家賃を直接支払って下さい」と言ってきた。亀田さんは供託して頑張るつもりだったが相手が折れては仕方なく、家賃を支払いにいった。




組合への入会が家主の
いや味に耐えさせた
大田区

 昨年9月組合事務所を尋ねて来た大川さんは、居住する大田区久が原一丁目所在の木造瓦葺二階建共同住宅の建物の老朽化を理由に、建替えるからと明渡しを請求され、家主が不動産業者を連れて来て立退料5万円を提示し、印鑑を押すようにと強要されたが拒否して頑張っているということだった。
 約一六・五平方メートルの部屋を月額四万円の家賃と管理費一千円で借りているが、一ヵ月程度の立退料では、移転は出来ないのは明らかにも関わらず、この現実を考慮せずに補償内容が他の賃借人に波及することをいやがる家主とこの家主に追随する業者の説得が課題だった。
 大川さんは組合に一任したと伝え、業者との交渉となった。業者を理解させて渋る家主の同意を得るのに5ヵ月を経過。この間の家主の厭味三昧に負けず、大川さんは充分納得出来る約二五ヵ月分の補償内容で合意し、この程無事移転することが出来た。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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