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東京借地借家人新聞


2003年2月15日
第431号
 ■判例紹介  

地代の減額請求が借地上の建物の家賃をもとに算定すべきとされた事例

 借地人の地代減額請求が、借地上の建物の家賃を元に適正継続地代を算定すべきものとして棄却された事例(東京高裁平成一四年一○月二二日判決、判例時報一八○○号三頁)

(事案の概要)

 Xは、横浜市中心部に店舗・共同住宅・事務所ビルを所有する借地人であり、Yは、その敷地の所有者である。XはYに対し、平成六年に定められた月額金一七六万七○○○円の地代額につき、公租公課の減額及び土地価格の下落を理由として、平成一二年五月以降月額金一一三万一○○○円に減額請求した。

(裁判)
 一審の横浜地方裁判所は、不動産鑑定結果に基づき、月額金一三五万六○○○円へ減額するとの判決を言い渡した。これに対し、Yは東京高裁に控訴を申し立てた。
 東京高裁は、「土地の市場価格や公租公課の額が減少したというだけでは、直ちに減額されるべきでなく、地上建物の賃料をもとに土地残余法などによって算出される地代の額が従前の地代の額を下回る場合に、上記の算出される額を参考として減額することを検討すべきである。」とした。そして、本件では、「賃借人がその所有の地上建物の賃料収入などを把握しながら、賃貸人の要請あるいは裁判所の勧告を無視して、これを明らかにせず、それらの資料が提供されれば、土地残余法による地代を算定すれば、現行の地代が適正水準であるかどうかが明確になるはずである。もし、その額が現行賃料を大きく上回ることがあるならば、一挙にその額に増額することは相当でないこともあるから、継続性を考慮して相当額の範囲にとどめたり、あるいは、これまでに地代以外に授受された金額を考慮して、調整することもあろうが、まず上記の適正額の算定をするのが先決ではないかと勧めた。ところが、Xは、このような開示を拒み、適正な地代額の計算の道を閉ざしたのである。Xは、自己の収受する建物賃料を開示しないのであって、これが下落したとの事実を認めることもできない。したがって、当裁判所としては、上記減額意思表示の時点でも、適正な地代の額は、現在の地代の額を下回っておらず、かえって上回っている可能性も残されていて、これを否定することはできないものと認定判断する。よって、Xの減額請求はすべて棄却すべきものである。」と判示した。

(短評)
 東京高裁は、地代減額請求について、地上建物の賃料収受額をもとに、土地残余法(土地の収益還元価格を算定する上で必要な土地の適正な地代の額を算出する方法・国土庁平成六年九月二六日「新手法による土地残余法」)及び東京高裁の三判例(平成一二年七月一八日判決、同年九月二一日判決、平成一三年一月三○日判決)によって地代を算定すれば、適正地代額が明確になるとしている。他方、公租公課の減額、地価の下落は賃料減額の根拠にならないとしており、実務上参考になる。

(弁護士 榎本武光)




更新料で頑張った

板橋区熊野町の西郷さん

法的根拠がないと断わる
地代値上げも断わると物納の通知

 板橋に住む、西郷さんの家は板橋区と豊島区の区界で、昔は、目の前を川が流れており、今は暗渠になって遊歩道と公園になっている。昨年の夏に、西郷さんの自宅に地主の代理人の不動産会社が訪問してきた。内容は、法定更新中の契約を更新したいので、更新料の支払と地代の値上げ、そして契約書を取り交わしたいと言ってきた。昔、借地借家人組合に相談した事がある西郷さんは、知り合いの人を通じて組合事務所に相談に来た。組合では、直ちに地主宛てに「更新料については法的根拠がないこと。地代の値上げについても、経済事情の動向、公租公課の増減、近隣の相場のいずれもとっても値上げの要因がないこと」との断りの通知書を出した。この通知書に対して代理人は更新料と値上げをあきらめ財務省に物納したいので契約書の作成に応じて欲しいと言ってきた。財務省に提出予定の契約書案は増改築特約や更新料支払などの内容で認められないと返答。最終的には借地人に不利な条項を全て削除した契約で文書が出来上がった。




隣室者が大暴れ

酒乱男がバットを振って、ドアを蹴るため
危険を感じて110番

国立市

 国立市谷保の3階建て賃貸マンションの2階に昨年10月に引っ越してきた松政陽子さんは、引っ越して2週間後の11月8日の夜10時頃突然下の部屋から壁を叩くような音がした。だんだん音が近づいてくるので、ドアを開けてみると、男が廊下の手すりをバットで叩きながらこっちに向かってくる。松政さんは、危険を感じてドアを閉めて鍵をかけた。男は、ドアを蹴って「外へ出て来い。ぶっ殺してやる」と怒鳴り始めたので110番した。
 どうやら下の男は酒乱で、普通の生活音にも異常に敏感で、警官が来ても「今度やったらぶっ殺してやる」と叫ぶ有様で、その場は何とかおさまったが、生きた心地がしなかった。
 翌日早速、物件を紹介した不動産会社のエイブルの担当者に連絡し、家主にも事件のことを報告した。下の酒乱男は以前にも同じような騒ぎを起こし、3ヶ月住んで出て行った人がいたことが分った。
 松政さんは、一日も早くここから出て行きたいとエイブルの担当者に相談したが、誠意のある返事が返ってこなかった。困って組合に相談したところ、エイブル本社に直接連絡を入れるようにアドバイスを受けた。その後組合役員と一緒に立川店を訪問した。その結果、敷金と礼金3か月分を返して貰い、手数料なしで日野市内の物件を紹介してもらい無事引越しを終えた。松政さんは、「あの時は本当に心細く、組合が地獄に仏と思いました」と語っている。




底地を公売で落札

江東区

 江東区大島5丁目の坂田さんは約42坪の借地をしていた。15年程前に地主が地上げを業とする不動産業者に変わってから係争が始まった
 高価格で底地を買取れといわれたり、次々と地主が変わった。このため、15年間供託をして頑張り抜いた。
 ところが、最近静かになったのでどうなったかと思っていたら東京都が私の住んでいる借地の差押に来た。
 早速、都主税局整理部や公売課と交渉を開始。10数回の話合いで地主は全く資料がないので坂田さん方で全部揃えることになった。
 いよいよ公売になったため、坂田さんも参加した。公売はその土地に関係のある人が入札権を持っている。
 入札の結果、坂田さんは公売底値の400万円で落札できた。直ちに、入金を済ませて昨年12月には登記も完了した。「思いだせば、借地人組合に元気と力を出してもらって今日という日があると思います」と坂田さんは語る。




明渡しを断ると、立退いた
店から壊すと脅す

品川区

 品川区豊町5丁目で建物を借りて中華料理店を営業している神野さんは、営業中に突然業者が尋ねてきて建物を明け渡すよう請求された。
 驚いた神野さんは、地元の商店街の人に紹介されて組合に相談にきて加入したが、家主の代理人と称する業者は、「何で組合なんか入ったのか。あそこは届けのない団体。搾り取られてしまう弁護士も頼むな。」等勝手なことを言って脅かしてきた。
 神野さんは、交渉を組合にまかせたが、組合にきた業者は、300十数万円で新しい店が借りられるのだから立ち退いてほしい旨、立退きの条件を提示してきたが、神野さん側が立退く意思がない旨意思表示すると、今度は神野さんの店に現れて立退いた店から取り壊すと言ってきた。
 神野さんは、組合の顧問弁護士にすぐ連絡をして「妨害排除の仮処分」等の手続きをするべく準備中。神野さんは、店舗の営業を守るためにがんばっている。




【借地借家相談室】

更新拒絶で借地契約が終了した場合
借地人に何か対抗する方法があるか

(問)地主が土地の明渡しを求めてきた。借地人は地主に対して借地上の建物を買取らせることが出来るというが、どんな場合に出来るのか。(目黒区 自営業)

(答)借地契約が終了した場合、本来ならば借地人は建物を取壊し、更地にして返却しなければならない。しかし、使用に耐えられる建物を壊すことは社会経済的利益の保護及び借地人が建物のために投下した資本の回収が出来ない。そこで借地人に「建物買取請求権」(借地借家法13条1項)を設けて借地に投下した資本の回収を可能にした。また間接的に地主に経済的負担をかけることによって更新拒絶を遣難いものにする効果をもっている。
 借地人が建物買取請求権を行使した場合、地主が買取を承諾しなくても、請求があればそれだけで建物の売買契約が成立する。その結果、地主は買取を拒否できず、建物を時価で買取ることになる。建物の時価は、「建物が現存するままの状態における価格であって敷地の借地権の価格は加算すべきではないが、この建物の存在する場所的環境は参酌すべきものである」(最高裁1960年12月20日判決)。即ち、地主が支払う建物の時価は建物自体の価格に場所的利益が加算される。この判例では、借地権価格を含めないとしているが、実際は借地権価格を考慮に入れている。
 それでは、どんな場合に「建物買取請求権」を行使出来るのか。権利行使の要件は(1)借地期間が満了したこと(2)契約の更新がないこと(3)借地上に建物があることである。一番多いケースは、借地人が更新請求をしたが、地主が更新を拒絶した場合である。地主と借地人が合意の上で解約した場合はどうであろうか。判例は「土地の賃貸借を合意解除した借地権者は買取請求権を有しない」(最高裁1954年6月11日判決)としている。借地人が買取請求権を放棄したものと解されている。また地代不払い等の債務不履行や契約違反で契約解除された場合も判例は一貫して建物買取請求権を否定している。
 地主と借地人の間で買取価格について協議が纏まらなかった場合は、調停や裁判で適正な買取価格を決定してもらうことも出来る。建物の買取価格は、鑑定実務では概ね借地権価格の20〜30%と考えられている。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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