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東京借地借家人新聞


2002年8月15日
第425号
 ■判例紹介  

賃料差押え後明渡した場合敷金を賃料に充当できるとした事例

  抵当権者が物上代位に基づき賃料を差押え後、賃貸借契約が終了し目的物を明け渡した場合、賃借人が敷金を賃料に充当することができるとされた事例(最高裁平成14年3月28日判決、判例時報一七八三号42頁)

(事案の概要)

 X(信託銀行=抵当権者)は、A(建物所有者)との間で、A所有建物について根抵当権を設定した。AはB(賃借人)に対して建物を賃貸し、BはY(転借人)に対しさらに建物を賃貸した。
 転貸借契約において、YはBに対し敷金一千万円を預託した。
 XはAが借入金の返済をしないため、根抵当権の物上代位権に基づき、BがYに対して有する賃料債権を差押えた。
 その後、YはBとの間の建物賃貸借契約を解除し、建物を明け渡した。
 そして、YはXに対して、敷金により賃料支払債務は消滅したと主張した。

(裁判)
 一審は、「敷金返還請求権は、物上代位による差押え後に発生したものであるからYはXに対抗できない。」として、Xの請求を認めた。
 二審は、「賃貸借契約が終了し目的物が明渡されたときは、賃料は当然敷金が充当される結果、差押えにかかる賃料債権は消滅すると解さざるを得ない。」として、Xの請求を棄却した。
 最高裁は、「敷金の充当による未払賃料等の消滅は、敷金契約から発生する効果であって相殺のように当事者の意思表示を必要とするものではないから当然消滅の効果が妨げられないこと、抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差押える前は、原則として抵当不動産の用益関係に介入できないのであるから、抵当不動産の所有者等は敷金契約を締結するか否かを自由に決定することができることから、敷金が授受された賃貸借契約にかかる賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差押えた場合においても、当該賃貸借契約が終了し、目的物が明け渡されたときは、賃料債権は敷金の充当によりその限度で消滅する」と判示した。

(短評)
 賃貸人の資力が悪化した際に、賃借人が賃貸借契約を終了させて賃借物件を明け渡せば敷金を賃料債権に充当することによって回収する方策を認めたものである。なお、抵当権者が物上代位権を行使して転貸賃料債権を差押えることは原則として否定されている。(最高裁平成12年4月14日判決)

(弁護士 榎本武光)


明渡しで頑張る

立川市高松町の比留間さん

従前と同一の条件で更新

立退料192万円の提示を断る

 JR立川駅から徒歩10分ほどの高松商店街で書店を経営している比留間さんは、借地人である家主が立川駅前で経営する中華料理店が倒産したため、借地権と建物を今年の6月10日付で地主に売却した。地主である新家主から、6月5日に「立ち退き通知書」送られてきた。
 内容は、5月31日付で前家主との間で借地権と家屋の売買契約が成立した。立ち退きの件については、?家賃月額16万円の12か月分192万円を支払う。?敷金百万円は立ち退いた後原状に復帰した時点で精算する。
 比留間さんは、昭和52年に開業して今年で25年になる。長引く不況と駅前の開発の影響で、櫛の歯が欠けるように廃業する店が相次ぎ、隣の家具店がやめた跡地を地主は現在駐車場用地として貸している。比留間さん達を立ち退かせることが出来れば大きなマンションも十分に建つ。
 その後、家主は2年間のみ貸す等の条件を提示してきたが、組合の支援も受け比留間さんはいずれも拒否。結局6月1日から前家主と全く同じ条件で3年契約を更新した。


家賃の値下げ

家賃15万円を7万円に値下げ要求
家主は9万円回答

豊島区

 池袋の駅から歩いて十五分位の所にある美容室カサブランカは、この地で商売をして約三十年近くたっている。
 林さんが、ここで商売をはじめた頃は順調にすすみ、家主からの家賃の値上げについても、ほぼ言われるとおりに値上げに応じてきた。バブルの頃は、毎年のように値上げされ、それでもそれを上回る売上もあり応じてきた。バブル崩壊後も近隣の相場が軒並み値下げしてきても家主の言われるままに支払ってきた。
 ここにきて、自分も後何年仕事や商売が出来るかそんな事を考えていると現在の家賃のことが気になるようになった。又、二年間近く空家になっていた隣の店舗がこの春入居して、賃料がいくら位のものか問い合わせた所、自分が支払っていた賃料の半分だったというのがショックで、なんとしても賃料の値下げをしたいと思うようになった。
 お店に来る知り合いから、借地借家人組合に相談したらよいとおそわり、組合事務所を訪問した。
 組合で相談したところ、がんばって値下げ交渉をすることを進められた。組合事務所から賃料値下げの話し合いをしたい旨、通知書をだした。「経済事情の動向、公租公課の増減、近隣の相場どれをとっても賃料値下げの要因である。しかも、お隣の賃料は当方の賃料の半分ということで現行十五万円を七万円にするよう提案する」という提案に対して、家主側は、第一回目の回答で九万円を示してきた。家主から、この回答を引き出した林さんは自信をつけ「七万円にするようがんばってみたい」と決意し、第二回目の交渉にのぞんでいる。


家主あきらめて敷金を返却

中野区弥生町

 中野区弥生町でマンションを借りていた岡山さんは、本年6月4日に退去した。すぐに、代理人の不動産業者から38万円の修繕請求が。岡山さんの敷金は36万円で、償却条項があるため退去時に18万円差引かれる。
 岡山さんは、償却費を取られているので故意・過失以外を除いた敷金を全て返還するよう家主に求めた。
 西部借組の敷金システムを利用して通知。不動産業者と家主が交互に交渉してきたが、残敷金の全額返還が無ければ訴訟と通知。家主は、あきらめて残敷金の全額返還。


共益費に疑問を抱き調
停で5年分返還させる

足立区

 足立区関原に住んでいる清水さんは、25年間借店舗で洋品店を営んで来たが、この度更新を機会に自宅で営業することにし、明け渡した。
 でも、25年間払い続けた「共益費」が気になり、明細を求めた。しかし、仲介の不動産業者を通して「説明する必要もないし、勿論返金することなど考えてもいない」の一点張り。清水さんは組合と打ち合わせて調停を申立てた。
 元家主は弁護士を代理にたててきた。その先生いわく、共益費は賃料です。清水さんはどうしても納得がいかず、頑張って、頑張ってとうとう5年分の共益費の返還にこぎつけた。
 清水さんは「今回は本当に勉強しました」と語った。




【借地借家相談室】

定期借家契約でなければ更新しない
それが嫌なら今すぐ部屋を明け渡せ

(問)2年の借家契約は5月15日に満了した。家主は定期借家契約でなければ契約しないと、契約の切替えを強要した。納得出来ないので契約締結を保留していたら、6月20日契約切れだから7月15日までに部屋を明け渡せと通告して来た。どうしたらよいか。(台東区 会社員)

(答)(1)既存の借家契約から定期借家契約への切替えは居住用借家に関しては特別措置法附則第3条によって禁止措置が採られ、仮に合意の上であっても、居住用普通借家契約から定期借家契約への切替えは法的に出来ない。
(2)借地借家法には、法定更新というものがあり、その規定は次のようになる。賃貸人は、法定通知期間(契約の期間満了の1年前から6ヶ月前まで)に賃借人に対して更新拒絶或は条件変更の通知を行っていないと、借家契約は従前の契約と同一の条件で自動的に更新される(借地借家法26条1項)。相談者の場合はすでに5月16日より法定更新されており、契約切れなどしていない。契約は適法に継続している。
 法定更新後の契約期間は、同26条1項の規定により「定めのないもの」ということになる。以後契約の更新は発生しないので更新料の問題は法的に起こりえない。
(3)家主は、7月15日までに明渡しを要求しているが、期間の定めのない契約の場合「建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。」(同27条1項)とあるように、解約の申入れをしてから6ヶ月間の法定期間を経過しなければ、解約の効果を生じない。そして、6ヶ月経過後も借家人が借家の使用を継続している場合は、家主は積極的に遅滞なく異議を述べないと、借家契約は法定更新される(同27条2項)。
(4)但し、賃貸人の解約の申入れには正当事由がなければならない(同28条)。正当事由の有無の判断は裁判所が認定する。因って、賃貸人の部屋の明渡し要求は、裁判所が「正当事由」有りと認定しない限り法律的に認められないので、すぐ部屋を明け渡す必要はない。だが、今後のことを考えると組合とよく相談し、対処方法を検討して行動されることを勧める。



毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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