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東京借地借家人新聞


2002年5月15日
第422号

貸したのは先代だと
地主が借地の相続を拒否

江東区

 江東区大島4丁目で25坪の土地を借りている田辺さんは昨年先代が亡くなった後、相続を地主に通知した。

 地主は、「貸したのは、先代で、あなたとは契約していない」と言ってきたので心配になった。以前、区民センターで組合の相談会にでたことを思い出し、組合に相談に来た。

 田辺さんの借地は、1970年から借りて、地代は年間二一六一九〇円(坪・月額721円)の年払い。更新は、特別にせず、法定更新になっていた。

 相談の結果、田辺さんは、地主に対して借地権の相続と今後も従前と同一の条件で賃借を続けたいという通知を出した。地主は、その後は黙ってしまった。年払いの地代も何も言わず受取った。

   



店舗の明渡しを組合で断る

品川区戸

  品川区戸越銀座商店街で建物を借りて洋品店を経営している矢島さんは、家主側の業者から建替えるから立ち退けと請求されて、今年4月末には立ち退くと一筆を書かされてしまった。

 近所の人に組合の存在を聞いて相談に来たが、組合では「商売をしているのですぐには立ち退けない」と家主に通告した。

 すると、家主側の業者が早速組合に飛んできて、悪気があって一筆書かせた訳では無いと弁明した上で、組合と相談をして円満に解決したいと申し入れてきた。

 矢島さんが借りている建物の上にアパートが在り、そこの借家人も明け渡しを請求されていたので、矢島さんと共同作戦をとってがんばることとなった。

 最近、戸越銀座商店街では小売店舗の明渡請求があちこちで起こっているが、性急に文書で約束をさせてしまうというケースが増えているので、組合も5月18日には近くの会場で相談会を行なう計画である。

   



堅固建物を許可

大道路拡幅での建替えに
地主が承諾せず裁判所に申立て
東村山市

  東村山市栄町2丁目で、西武線の八坂駅の傍でパン屋を営業する澤田浩司さんは、東京都の道路拡幅工事で建物と借地の一部112坪が買収されるため、拡幅後の残地176坪に堅固建物を建てるため平成8年地主に許可を求めた。 

 地主は建替えを許可しないばかりか、道路拡幅の借地権の補償も5分5分を主張したため、澤田さんは同じ借地人の阿倍さんとともに東京地裁八王子支部に借地条件変更の申立てを行った。審理は長期化し、鑑定も2度行われた。昨年の5月8日にやっと裁判所の「決定」が下りた。

 決定は、澤田さんの道路拡幅後の残地に鉄骨造地上4階建の堅固建物を建てることを認め、付随処分として条件変更に伴う財産上の給付として更地価格1708万円の1割170万8千円が相当であり地代は月額2万4844円(残地月額1万5167円)に変更することが決まった。

 裁判所の判断では、道路拡幅で澤田さんの店が全てなくなり、2階も居宅の6畳2間を失い営業も生活も出来なくなることから、4階建の堅固建物に改築することが必要であることが認められた。借地の一部についてのみ条件変更の申立てをすることは許されないとの地主の主張については、「相手側に不当な不利益は認められない」と退けた。

   



明渡しを断る

大田区北千束の萩原さん

当初家主は自己使用を主張
転売が理由と判り業者も手を引く

 東急目黒線と大井町線が交差する大岡山駅より徒歩1分という大田区北千束3丁目にある分譲マンションの一部屋約30 平方メートル (浴室付)賃料月額7万8千円で、平成7年8月に契約し、入居した萩原さんは、その後、法定更新で期間の定めがないまま今日に至っている。

 滋賀県に住む家主は昨年11月、自己使用を理由に明渡しを入居時の仲介業者を通して伝えてきたが、息子の卒業で空室となり賃貸することになったとの説明で入居したので、萩原さんは自己使用の真意の確認を求めたところ、その事実はなく、業者は逆に家主に撤回させることにした。

 しかし、家主は諦め切れず新たな業者に代えて再び明渡しを求めたので、萩原さんは組合に加入。業者は組合が連絡後2ヵ月経過した4月中旬になって組合を訪ねてきた。

 業者との協議では、転売が理由な上に要望の補償額が準備できそうもないので、契約の更新手続きをするように家主を説得する旨の申し出でがあった。

   


 ■判例紹介  

権利金の性格をもつ敷金が新所有者に返済債務の承継が認められた事例

 建物賃貸借契約に伴って差し入れられた金員が敷金と権利金との性質を併有している場合において新所有者による返還債務の承継が認められた事例(東京地裁平成一二年一〇月二六日判決、金融・商事判例一一三二号)

(事案の概要)
 賃借人は、賃料月額二二万六三八〇円でラーメン店のために建物一階を賃借し、敷金一〇七八万円を差し入れた。敷金額は坪当たり八〇万円で計算され相場と認識されていた。契約終了時に一割五分を償却し、明渡し三ヶ月後に返還するという特約があった。
建物所有者の抵当権者が競売を申し立て、競落した新所有者は、敷金の返還債務となる額は、賃料の七ヶ月分相当の一五八万四六六〇円であると、訴訟を起こした。

(判決要旨)
 本件敷金は賃料の四八・五倍であって不払い賃料の担保としては通常必要な範囲をはるかに超えている。坪単価で提案した金額を相場の敷金と当事者双方が認識していたことに鑑みると、本件敷金は、本件営業上の場所的利益の対価である「権利金」の趣旨も併有している。本件敷金についての契約条項によれば、基本的には債務の担保となる「敷金」であるとともに、「権利金」の性質も兼ね備えるものとして、賃貸借契約と密接に関連する重要な要素の一つとして合意したものである。そして、当事者間では、本件敷金は明渡し後に償却分を控除して返還されることが明確に合意されている。本件敷金の中の「権利金」の性質にのみ着目して、経済的意義を考えてみても、営業上の場所的利益の対価は、賃借人が賃借時に賃貸人から場所的利益を買い受ける対価として賃貸人に支払うものであるから、契約終了時には、対象建物を返還するのと引換えに、賃貸人が賃借人に対し原状回復として場所的利益をそのまま返還させることが合理的な対価の授受であると評価できる。このような当事者の意思に鑑みると本件敷金にかかる返還約束は純粋な敷金関係と同じく、本件賃貸借契約と密接に結びつき、かつ建物所有者である賃貸人の地位にとって重要な経済的意義を有する権利関係として、本件建物の所有権を取得した新所有者にも引き継がれるものと解するのが相当。

(説明)
 建物の競売などで新所有者になった者が敷金、保証金、権利金等賃借人から交付された金員について返還債務を引き継ぐかどうかの問題である。建物所有者が変更したとき敷金は新所有者に承継される(最判昭和四四年七月一七日)が、保証金は承継されない(最判昭和四八年三月二二日)。
 権利金は格段の特約のない限り契約終了時にも返還を受けられない(最高裁二九年三月一一日判決)というのが判例である。
敷金をめぐる賃借人と建物債権者との利害について、返還額を制限して債権者を優先しようとする現在の傾向の中で注目すべき判決である。

(弁護士 川名照美)


【借地借家相談室】

離婚による財産分与や夫婦間の無断
借地権譲渡は契約解除原因になるか

(問)夫と協議離婚することになりました。離婚の条件として夫名義の建物を分与されることになりましたが、地主との関係はどうなりますか。(新宿区 会社員)

(答)借地上の建物の所有名義を変更することは、借地人の変更を意味し、借地権の譲渡又は転貸があったことになる。借地人が借地権を第三者に譲渡する時は、地主の承諾を得ることが必要であり、それをせずに、建物を財産分与して、夫から妻への所有権移転登記をしたことが地主に露顕した場合、借地権の無断譲渡として借地契約の解除理由になる(民法612条)。その場合、地主は借地契約を解除した上で、建物収去土地明渡請求をすることが果して出来るのか。
 例えば、夫が宅地を賃借し、妻はその地上に建物を所有して同居生活をしていた夫婦の離婚に伴い、夫が妻へ借地権を譲渡した場合において、貸主は右同居生活及び妻の建物所有を知った上で夫に宅地を賃貸したものである等の事情がある時は、借地権の譲渡につき貸主の承諾がなくても貸主に対する背信行為とは認められない(最判昭44・4・24)
 また、借地人と共同して鮨屋を経営していた内縁の妻が夫の死亡後、その相続人から借地権の譲渡を受けたのに対し、地主が無断譲渡を理由に借地契約を解除した事案。地主の承諾なく借地権が譲渡された場合でも、地主が借地人と内縁の妻が共同生活をしている事実を知っていたという事情がある時は、「賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合」賃貸人は民法612条2項による賃貸借の解除をすることが出来ない(最判昭39・6・30)
 夫婦間の借地権の譲渡や転貸、離婚による財産分与としての借地権の譲渡は、土地の使用収益の実権をもつ主体が変化するのであるから、本来的には貸主との関係では無断譲渡や無断転貸となり、契約の解除原因となる。しかし、契約締結時、借地人に配偶者、内縁関係にある者があり、それらの者も借地を使用することを知って地主が貸した場合、その後借地人から借地権が移転しても最高裁の判例は地主との信頼関係を破壊しないと認められる特段の事情がある時は、地主の契約解除及び、土地明渡請求を認めていない。


毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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