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東京借地借家人新聞


2002年4月15日
第421号

建替え再入居

寿司屋を営む清水さん
新築店舗の所有権を取得
造作費用は家主側負担で双方合意

 新宿区で寿司屋を営業していた清水さんは、昨年、家主の代理人という不動産会社からこの土地にマンションを建設するからという理由で、明渡を請求された。
 譲渡権付店舗契約で寿司屋を営業していた清水さんとしては、簡単に立退く訳にもいかなかった。大変困った時に、常連のお客さんが「借地借家問題で相談できる組合があるからそこにいくといいよ」と言われた。組合に相談し、自分でできるところまでは自分でやってみようと思った清水さんは、明渡には応じるが新しいマンションに入居出来るという条件ならば話合いに応じるという事で交渉した。交渉は最初の不動産会社から建主の会社へと移ったりしたが、粘り強く交渉した結果、立退き補償金で新しく出来るマンションの一階店舗を建主が造作費用を出した上で売買するという合意が出来た。造作する中味の問題やその間の休業補償の問題での合意も出来、この三月に正式に明渡し再入居合意書と売買契約が結ばれた。清水さんは「この難しい交渉を出来たのも組合のおかげです」と語った。

   


 

更新料不払い

借地人8人が一致団結し更
新料の不払いで大きな成果

府中市

 本紙の昨年3月号及び10月号に掲載した八王子市本町の大村富三さん他7世帯の借地人一同は、地主の更新料請求の調停申立てに対し、八王子簡易裁判所に調停不調の上申書を昨年9月に提出した。
 上申書には、更新料請求を拒否した経過と、地主の代理人から契約解除の通告を受け、 地主には正当事由がないため昨年5月1日をもって法定更新していることを主張した。また、更新料については最高裁昭和51年10月1日判決、同53年1月24日判決で、借地人には更新料支払い義務のないことは確定していることを主張した。
 地主の代理人から「前回更新時の契約書で次回の更新の際に更新料を支払う。金額は契約更新の時期に至った時当事者双方で協議して定める旨の約定がある」との全く嘘の主張に対しては、契約書の中にもそのような合意は一切ないことを明確に反論した。
 八王子簡易裁判所からは、昨年11月19日付で地主側が8名の借地人全員の調停申立てを全て取り下げたとの事由で「調停終了通知」が各借地人に送られてきた。その後現在まで、地主の側からは何らの動きもなく、地主の不動産業者や弁護士まで使った執ような更新料請求はひとまず陰をひそめた。
 最初は地主の代理人から、契約解除の内容証明郵便を送りつけられたり、「更新料を支払わないと孫子の代で借地権はなくなる」と脅かされたり、裁判所に調停を申し立てられたりと、この1年、借地人一同「ハラハラドキドキ」だったが、組合の指示に従ってしっかりと結束したことが、今回の結果に結びついた。

   


 

借地権譲渡で合意

大田区

 大田区上池台五丁目に居住する小林あきのさんが、組合への加入は供託所で当組合員と知り合い紹介されたことだった。
 48・8坪の借地に関する更新料550万円の請求を受けて、117万円余の支払いを提示したが合意に至らず供託することになったが、80歳を越えて体には大変厳しいとのことで平成7年6月に組合に加入した。
 同年12月には、小林さんが提示した更新料の相当額を求めて地主は調停裁判に持ち込んだが、不払いを主張し不調になった。翌年10月には明渡しの裁判になった。裁判で地主は立退料1500万円を提示。高齢で一人暮らしの母を心配する息子の意見を受入れて、息子の住む川越市に移転する方針で裁判に望んだ。一年半の時間が掛かったが、この程、提示額の二倍余の金額で今年の6月末引渡しの内容で合意した。
 先日、小林親子が組合事務所にきて、息子は自宅に母の住いを確保したと報告。当初は心配したが大変満足できる内容になったと喜んでいる。

   


 
 ■判例紹介  

賃料額確認の訴えが抽象的な合意だけでは争訟に当たらないとされた事例

 不動産賃貸借における賃料額の確認を求める訴えが、当事者間に「公正な額で決定する」といった抽象的な合意があるだけでは「法律上の争訟」に当たらないとして却下された事例。(東京高裁平成13・10・29判決。判例時報一七六五号四九頁)

(事案の概要)
 一、池袋駅西口に大型ビルを建設する事業に参加したX(常盤興業)は、ビルの三階部分(本件建物)の所有者となった。事業推進中、XとY(東武鉄道)は、Xを賃貸人、Yを賃借人とする賃貸借契約を締結しようとしたが、賃料額について合意に至らず、この点については「今後、XとYとは、それぞれ調査研究することとし、各々信用ある第三者の専門家に他の類似の百貨店の賃貸条件の調査を依頼し、それを持ち寄り、これらを尊重し、誠意をもって協議し、公正な額で決定する」との合意書を取り交わした。
 二、平成4年ビル竣工、Yは東武百貨店に本件ビルを転貸した。月額賃料としてYは二○六三万円を、Xは約四六五○万円を、それぞれ主張して折り合いがつかず、Xが提訴。東京地裁は二五九三万円が相当との判決をした。
 YもXも控訴。東京高裁は内容に入らず門前払い。

(判決要旨)
 賃料額について右の合意書の程度の抽象的な合意しか成立していない本件においては、裁判所が合意に基く賃料額を証拠によって認定することは不可能。また裁判所に裁量によって賃料額を定める権限を付与した法律は存在しない。
 本件は具体的な権利義務に関する争いではあるが、右の合意書の程度の抽象的な合意があるだけでは、現行法のいずれを適用しても具体的な賃料額を確認するという結論は得られないのであるから、本件訴えは「法律上の争訟」に当たらず、裁判所の権限に属しないことについて裁判を求めるものであるから不適法であり、却下は免れない。

(解説)
 この判決は、XY間の当初賃料額(いったん決った賃料額の増減ではないことに注意)について「誠実に協議し公正妥当な賃料額を定めるものとする」とした抽象的な合意しかない場合には、裁判をすることができないとして一審判決を取消してXの訴えを却下(門前払い)した。
 賃貸借契約をはじめて締結する場合に賃料額が決らないままスタートするという例はほとんど見かけないが、なぜこの判例を紹介したかというと、借地の更新料について契約書の中に「更新時には更新料を支払う」との文言がある場合、これが「抽象的な合意」であり、裁判にはなじまないということを知ってほしいと思ったからだ。

 (弁護士 白石光征)

   


【借地借家相談室】

法定更新をした借家の契約は抵当権
設定後の短期賃貸借の保護があるか

(問)コンビニを経営する大家のアパートに住んでいる。4年前に借家契約は法定更新にした。大家はバブル期に利殖目的の副業としてアパートを始めたもので、土地・建物はその時点で銀行の抵当権が設定されていた。最近、本業のコンビニ経営に失敗し、アパートが競売に掛けられた。このまま住み続けられるのか心配です。(北区 会社員)

(答)抵当権登記後に抵当不動産上に設定された利用権は、抵当権が実行されると効力を失うというのが原則だ。しかし、例外的に抵当権設定後の短期賃貸借(民法395条)に限って、抵当権者・買受人に対抗することが出来る。これを短期賃貸借と言い、借家契約は3年以内に限って保護される。従って、抵当権の実行により差押の効果が生じるまでは、3年以内の期間を定めた借家契約であれば、借家人は何回でも契約を更新することが出来る。その場合、法定更新の規定も適用される。また抵当権の実行により所有権が買受人に移転し、買受人から明渡し請求を受けても3年に限って、その期間内は住み続けられる。
 しかし3年を超えた期間を定めた場合、判例は一貫して抵当権者・買受人に対抗出来ないとしている。期間を定めない借家契約の場合、判例は「正当事由」があれば、いつでも解約できることを理由に「短期賃貸借」に該当するとしている。法定更新後の借家期間は期間の定めのない借家契約と同じ扱いで民法395条が適用される。
 期間の定めのない借家契約の場合、買受人からの解約の申入れには正当事由が必要である。しかし、正当事由の認定に際し、短期賃貸借という特殊事情を考慮し、借家人の権利を弱める方向に判断されている。従って正当事由の判断は相当程度に緩和して考える。買受人の利益を保護する方向に判例は統一されつつある。事実、借家契約を保護した判例は皆無である。
 結論、借家権を買受人に対して主張出来る。しかし、買受人の明渡し要求があれば、僅かな猶予期間で建物を明渡さなければならない公算が大きい。相談者はその覚悟をして措く必要がある。要するに、借家契約を結ぶ前に、登記簿で抵当権設定登記の有無を調べるという基本的な労を惜しんではならない。


毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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