過去のページ
東京借地借家人新聞

2001年9月15日
第414号

地上げ屋が横行

足立区千住東町の借地13世帯

借地人13世帯が組合に加入

団結して新地主の出方を待つ

 8月8日、足立借組の夜間相談会に、地上げされた一角の土地(借地人13世帯)の代表3人が組合事務所を訪ねてきた。
 地主が底地を売却したということで、買主(新地主)が測量等を始め、借地人全員が不安に陥っていると言う。担当した組合役員と協議した結果、後日現地で13名全員を集めて組合の説明会を開くことになった。
 8月12日に足立区千住東町老人会館で借地人全員出席の上で説明会を開催した。
 説明会には組合から3名の役員が参加して、組合の内容や今後の基本的な考え方等について説明し、結局、13名全員が組合に加入した。その場で班長を決めて、今後の対策の詳しい打ち合わせをして散会した。
 今回組合に加入した人達が住んでいる千住の町は、もともと長屋が多かった所で借りた当初は実測などせずに借りていて、隣地との境界も不明確なところが多く、問題の起こる要素を孕んでいる。
 組合では、新地主に対し組合を話し合いの窓口にするとの通知をだした。
 新地主が土地の明渡しを求めるのか、底地を売りつけるのか、それとも従前どおり借り続けられるのか、相手の出方を待っているところだ。




店舗の明渡し

老朽化で倒壊の危険ありと

する家主の主張退けて勝訴

豊島区

 豊島区上池袋、池袋駅から歩いて十五分位にある大通りで中華料理店とスナックを営業している高橋さんと渡辺さんは、一昨年、家主から明渡しを求められた。
 家主の条件は引越料程度だすが、後は一切補償しないというものだった。
 渡辺さんは入っていた民主商工会の紹介で、高橋さんとともに組合に入会した。
 その後の話合いは一方的で、話合いにもならない。
 家主は、建物明渡請求裁判を東京地方裁判所に起こしてきた。
 家主の主張では、本件建物は昭和二十四年に建築され、老朽化が著しい。
 その上、大通りに面しており、振動などの影響で建物内部構造がゆがんでおり、このままでは、地震等による倒壊の危険があると主張してきた。
 その証拠として、区役所が作成した耐震診断書を提出してきた。
 高橋、渡辺さんは、日常の営業のなかでは、倒壊の危険を感じたことがないこと、家主が二階を増築した時やその後、特別な補強をしなかったことが原因であるが、簡単な補強工事で十分耐震性のあるものにすることができること、家主自身、他に転居することなく生活していることから老朽化はしているが、朽廃が迫っているとはいえないと主張した。
 結果は、家主の主張を退け高橋、渡辺さんの勝訴となった。




ペンキ塗装に難くせ

地上げ業者が借地人を脅迫

品川区

 最近、区内の至る所に地上げ業者が出入りして、地主と借地人の関係を悪化させている。
 東大井で借地している秋本さんは、借地上に建っているアパートの窓枠のペンキ塗り替えを行なおうとしたら「無断増改築だ」と地主に代わって地上げ業者が怒鳴り込んできた。
 そして秋本さんに「もう少しで更新がくるのだし、土地を明渡してもらうから修繕など無駄な金は使わない方がよい」などと脅かした。
 他の借地人には「更新の話があるから来い」と地上げ業者の事務所に呼び出してすごんだりするなど紛争が多発している。
 秋本さんは、地上げ屋と対抗するため「組合に相談に行け」と借地人達に組合を紹介して回っている。




家賃の値上げ

更新料を拒否

大田区東雪谷

 大田区東雪谷5丁目で店舗を営む金村さんと鶴岡さんは明渡しを請求され、同一家主が所有する隣接の四階建の共同建物の一・二階を内装・改造等工事及び厨房備品等の設置を家主の責任で完了を確認後の平成7年9月に移転し、開店した。
 3年経過後家賃の差押え、さらに1年後競売になり、競売物件専門業者を介して山梨県所在者が新家主となった。家主は管理業者を代理に、家賃の値上げ・更新料(支払約定なし)等の大幅な条件変更を強要したが、賃借人は組合を通じて拒否。今年10月の更新を迎えて、契約条件変更と更新料を執拗に請求(業者の手数料になるとのこと)。また、業者の組合を介せず直接との要求をはねのけた賃借人の意思を受けて、組合は家主側の要求を拒否。協議の結果、従前と同一条件で更新することで合意して契約の締結を待っている。



 ■判例紹介  

賃料債権差押えは保証金返還請求権と賃料の相殺に優先するとした事例

 建物賃貸借契約の場合、抵当権者の物上代位権行使としての賃料債権の差押えは、賃借人の保証金返還請求債権と賃料債権との相殺に優先するとされた事例(福岡高裁平成12年7月18日、判例時報一七四九号56頁)

(事実)

 賃貸人は、平成2年10月1日、抵当権を設定した。賃借人は、平成8年10月1日、本件建物を賃借し、保証金500万円を差し入れた。
 その後、抵当権者は、平成11年6月29日、賃料債権に対し、差押え手続をとった。
 それに対し、賃借人は、平成12年2月28日、保証金返還請求権と賃料債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(争点)

 争点は、抵当権の設定登記後にその目的不動産の賃貸借契約がされた場合、抵当権者の物上代位権の行使としての賃料債権の差押えと、賃借人の保証金返還請求債権をもってする賃料債権との相殺のいずれが優先するかである。

(判決要旨)

 判決は、『本件抵当権設定登記後に本件賃貸借契約の締結、本件保証金の支払がなされ、かつ、本件保証金返還請求権が発生したことが明らかであるから、本件賃貸借は、元来、短期賃貸借の制限内で抵当権者に対抗できるにすぎないものであり、賃借人としては、本件賃貸借契約の締結に際し、既に本件抵当権が設定されていることを知り得たばかりでなく、賃料債権について物上代位権が行使されることがあり得ることも十分に予想できたのであるから、物上代位権の行使によって不測の損害を被るとはいえない。これに対し、相殺を物上代位権の行使による差押えよりも優先するものと解すると、抵当権設定者は、抵当権設定後にその目的物件に多額の保証金の支払を条件とする賃貸借契約を締結し、抵当権を無力化することや、また、抵当権者からの差押えの前に相殺することによって容易に物上代位権の行使を免れることができるようになるが、このような事態は抵当権者を不当に害するというべきである。以上によれば、抵当権設定登記により公示されている抵当権者の物上代位権の行使としての差押えは、賃借人の本件保証金返還請求と本件賃料債権との相殺に優先するものと解するのが相当である。』と判示した。

(短評)

 判例は、抵当権の目的である不動産について賃貸借がされている場合、抵当権者が物上代位により賃貸人の賃料債権について抵当権を行使できるとし、抵当権者において賃借人が供託した賃料の還付請求権について抵当権を行使することを認めている。
 したがって、不動産を賃借しようとする際には、その不動産について抵当権が設定されているかどうか調査することが必要であり、一般的には、賃貸借契約は抵当権設定後になるので、賃貸借契約に当たり多額の保証金を交付することは避けるべきである。

 (弁護士 榎本武光)



「借地借家相談室」


借地上の建物を建替えたいが建築資金を借り入れて建替えるのは可能か

(問)借地の場合でも、金融機関から建築資金の融資は受けられるのでしょうか。手持ち資金は殆どありません。また、契約書には、増改築禁止の特約があり、地主は建替えに反対しています。(大田区 自営業)

(答)地主が増改築禁止特約を盾に建替えを認めない場合でも、借地人が裁判所から地主の承諾に代わる許可の決定を得れば適法に建替えが行える(3月号当欄参照)。
 しかし、建築資金の調達に銀行・信用金庫等の民間金融機関による住宅ローンの利用を考えている場合は、先程の、裁判所の代諾許可の決定だけでは、建替えは殆ど不可能である。民間金融機関は、融資の条件として例外なく建物に抵当権を設定する。銀行は借地人を通じて、借地人が建築する建物を金融機関の抵当権(担保)設定することについて地主の承諾書―署名・捺印・印鑑証明書を要求する。更に、借地人の地代の不払いによる借地契約の解除を防止するために地主に対して地代の延滞が発生したら直ちに銀行に通知することを義務付ける確約書面への署名押印を要求する。借地人の建替えに反対している地主が、そう簡単に承諾書や確約書に署名押印する訳がない。仮に承諾するとしても借地人の弱みに付け込むことは当然で高額な「判子代」という不当な対価を要求する。
 では、自己資金のない借地人は建替えが本当に出来ないのか。住宅金融公庫等の公的融資を受ければ建築は可能だ。公的融資の場合は借地上の建物に対する抵当権の設定を免除してくれるので先程から問題になっている地主の承諾書はいらない。裁判所の代諾許可の決定があれば、それだけで融資が受けられる。住宅金融公庫の融資だけでは資金不足の場合は、厚生年金・国民年金加入者なら、年金融資から「併せ貸し」が利用出来る。また、建物の一部を店舗や賃貸住宅にすれば、その部分は、事業資金として、国民生活金融公庫から融資を受けることが出来、賃貸部分の収入を融資の返済に充てるという方法もある。
 結論、契約書に増改築禁止の特約があり、地主が建築に反対の場合でも、借地人が建築資金不足の場合でも、住宅金融公庫等の公的融資で住宅ローンを組めば建替えは可能である。


毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


 ← インデックスへ