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東京借地借家人新聞

2001年8月15日
第413号

敷金を取戻す

東久留米市の兼田さん

原状回復費34万円を請求

組合の通知で敷金全額取戻す

 東久留米市柳窪の鉄筋コンクリートのマンションを平成11年1月に借りて入居した兼田さんは、昨年6月に裁判所から借りている建物が競売になるとの連絡が入った。家主は江戸川区に住んでいるが一度も会ったこともなく全く寝耳に水の話。犯罪にも関係しているらしく警察まで調査に来た。
 兼田さんは、なんとなく住んでいることがいやになって今年の6月に転居した。ところが1週間後に不動産管理会社から原状回復に伴う見積書が送られてきた。クロスの張替え等で敷金16万円を上回る34万55円の請求にビックリ。引越しにお金が沢山かかった上に、修理代を請求され困っていたところ、引越し先の調布市の便利帖で組合の存在を知った。
 相談を受けた組合では、早速管理会社に通知を出し「本件貸室は裁判所に差し押さえがされた競売物件となっており、今後賃貸することができない物件でリフォームすることは疑問があり納得できない」と述べ、敷金を至急返金するよう請求した。インチキな見積書を見破られ観念したか、管理会社は数日後に敷金16万円全額を兼田さんの銀行口座に振り込んできた。




保証金の返還

支払督促の手続きの和解で

保証金の90%が返還された

板橋区

 板橋区幸町に住む佐藤さんは、同じ町内で蒲鉾製造販売の商売をしていた。今から二十年以上も前に再入居というかたちで、新しいビルに入居した。家主とは、再入居直後に店の前にある電柱の撤去をめぐって一年以上の争いがあり、その後、水道代、電気代の支払問題などで争いごとがあった。又、二年毎の賃料の値上げが、契約書の中に記載されており、いつのまにか近隣の相場からしても大変高い賃料になっていた。佐藤さんは、高額な家賃と長引く不況の中で、これ以上商売として続けていくことが困難になり、廃業することを決意した。しかし、この家主は、明け渡したあとも支払った敷金や保証金を返却しないという評判で、百五十万円近い保証金が返却されるかどうか不安になり、以前から知人に紹介されていた組合に入会した。
 今年の二月末に店舗を明渡した。一ヵ月後、保証金の返還を求めたところ、原状回復費用を五十万円近く求めてきた。早速、組合から手紙を出したところ「裁判でもなんでもやってくれ」という返事だった。そこで、佐藤さんは保証金返還督促命令の手続きを東京地方裁判所におこした。準備書面などを組合と一緒になって準備し、裁判所に出向いた。組合の事務局長も一緒に和解室で、裁判官立会いのもとで、条件について話し合い約九割近くの保証金が返還されることになった。「組合の人が、和解室まで立ち会ってくれて大変心強かったです」と佐藤さんは喜んでいた。




二年連続の値上げに

毎月従前どおりの家賃を払う

北区

 北区滝野川の商店街で精肉店を営んでいる鴨下さんは店舗兼居宅を昭和35年から同じ商店街にある会社から借りている。
 この会社は、以前から家賃の値上げを3年毎に一方的に通告してきた。鴨下さんはその都度、自分で相当と思う金額の値上げに応じてきた。
 ところが、前回の値上げから一年しか経っていない今年は二年連続で値上げを要求してきた。その内容は、17万5千円の家賃を18万6千円に上げろというもの。
 鴨下さんは、二年連続の値上げには応じられないとして従前通りの17万5千円を支払ったら、家主は領収証に不足金1万1千円と記入してきた。
そこで鴨下さんは、支払った金額は何月分の家賃全額である旨の内容証明郵便を面倒でも毎月だしている。




滞納家賃を返済中の契約の保証人自身も失業

足立区

 足立区保木間の野間さんは、友人の賃貸借契約の保証人になった。  始めのちは順調に家賃が支払われていたが、借家人が不況の影響で退職に追い込まれて家賃が滞った。一度は保証人の野間さんが支払ったが二度目の請求を受けてたまらず組合に相談した。
 しかし、保証人は一方的には解除できないので、組合と一緒に家主と粘り強く交渉を続けて、どうにか一年半たまった賃料の一年分を支払う約束で保証人を解除してもらった。
 ところが、今度は野間さん自身が失業してしまい、月五千円の分割で支払い中。




 ■判例紹介  

賃貸借及び転貸借された占有移転が
抵当権の侵害にあたるとされた事例

 賃貸借及び転貸借としてされた占有の移転が、抵当権の不法な侵害にあたるとして、抵当権に基づく明渡請求が認められた事例(東京高裁13・1・30判決。判例タイムス一○五八号一八○頁)

(事案の概要)

 建築会社Xは土地所有者Yから注文を受け、多額の建築資金を使ってホテルを建築してが、建築代金のほとんどが支払われなかった。Yは残代金を割賦で支払うことを約束し、ホテルの土地建物に残代金について抵当権を設定すること、抵当権実行の場合には賃借権を設定する、Yがホテルを他に賃貸するときはXの承諾を得ることなどの約束をしてXからホテルの引渡しをうけ、抵当権の設定登記はしたが、残代金は一切支払わず、Xの承諾なしにホテルをAに賃貸して引渡し、さらにAはXの承諾なしにホテルをBに転貸して引き渡した。また、賃料は当初は毎月の割賦金支払が可能な月五○○万円とされていたが間もなく月一○○万円に減額された。Xは、ホテルの土地建物につき競売の申立をするとともに、Yらを被告としてホテルの明渡しを求める本訴を提起したが、一審では賃借権に基づく明渡請求が棄却されたので控訴し、抵当権に基づく妨害排除請求を追加した。

(判決)

 「第三者の占有が抵当不動産の所有者の承諾のもとに行われていて、その意味では、その占有が権原のない占有とはいえない場合でも、その占有者の属性や占有の態様などが、買受希望者に、買受けた後の占有者などとのトラブルを予想させ、買受けを逡巡させるものであるとか、占有に関する状況が、買受希望者の当該不動産の価格に対する評価を不当に低下させ、その結果適正な価格よりも売却価格を下落させるおそれがある場合には、抵当不動産の交換価値が不法に妨げられていることに変わりはないものといわなければならない。―中略―
 第三者が抵当不動産の所有者の承諾のもとに占有していることによって、このような状態が生じている場合には、抵当権者は、抵当不動産を適切に維持管理することを求めうる請求権があるから、これに基づきその侵害の排除を求めることができる。また、抵当不動産を賃貸借(転貸借)などにより他人に占有させ、又は賃借人(転借人)などとしてみずから占有する第三者があり、それらの第三者の行為が抵当不動産の交換価値の実現を不法に妨げるものであるときは、これらの第三者を相手方として、抵当権に対する不法な侵害の排除を求めることができるものというべきである。」として、抵当権に基づく明渡しを認めた。

(寸評)

 本判決は、本件の控訴中に出た平成11年11月24日付最高裁判所大法廷判決が傍論で認めた抵当権に基づく妨害排除請求としての明渡を具体的事例に即して認めたものである。通常の賃貸借をしている分には、本判決の適用はないので心配はない。

 (弁護士 堀 敏明)



「借地借家相談室」


修繕特約がある場合の備え付けのエアコンの修繕は借家人の負担なのか

 (問)賃貸マンションの備え付けのエアコンが故障し、不動産管理会社に修理を依頼したところ、特約で修理は借主負担となっているので、電気店に自分で修理を依頼するようにと断られた。取敢えず自分で電気店へ修理を頼み、室外機のコンプレッサー不良交換で、5万円の修理代を支払った。本来備え付けの設備は、貸主が修理代金を負担するのが道理だと思うのですが。(世田谷区会社員)

 (答)民法606条1項で賃貸人は修繕義務を負っている。賃借人の故意・過失がない限り、賃借人が修繕をした場合、賃貸人に対してその費用を請求することができる。但し、同条は、任意規定であり、特約で修繕義務を賃借人に負担させることは、原則として可能である。「『入居後の大小修繕は賃借人がする』旨の契約条項は、単に賃貸人が民法606条1項所定の修繕義務を負わないとの趣旨にすぎず、賃借人が家屋の使用中に生ずるいっさいの汚損・破損個所を自己の費用で修繕し、家屋を賃借当初と同一状態で維持すべき義務があるとの趣旨ではない」(最判昭43・1・25)即ち家主の修繕義務を免除したにとどまり、積極的に借家人に修繕義務を課したものではない。「修繕特約は、一定範囲の小修繕については賃借人の全額負担とする旨を定めたものであるといえるが、居住用建物の賃貸借における特約の趣旨は、通常賃貸人の修繕義務を免除したにとどまり、更に特別の事情が存在する場合を除き、賃借人に修繕義務を負わせるものではない」(仙台簡判平8・11・28)他にも名古屋地判・京都地判等で同様の判例が多数あり、修繕特約によって賃借人が修繕義務を負うとされる場合でも、少額の費用で済む「小修繕」についてのみ修繕義務を負い、「大修繕」については修繕義務を負わない。即ち、大修繕に関して修繕特約を結んでも無効というのが裁判例である。

 結論、修理代金が概ね1万円以下の場合が小修繕と言われる。相談者の修繕は、小修繕とは言えない。従って、修繕義務を負わない。賃借人が自ら修繕費用を負担した場合は、賃貸人に対して、民法608条により、直ちに支出した費用の全額を費用償還請求できる。賃貸人が償還請求に応じない時は、家賃と相殺して回収することができる。


毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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