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東京借地借家人新聞

2001年7月15日
第412号

借地の明渡し訴訟

供託したのに地代不払?

貸倉庫の収入がストップ

建物占有移転禁止の仮処分で

 竹内さんは、台東区谷中で17坪を借地している。地代は月額二八三〇〇円。何十年も、3〜6ヶ月分纏めて、地主のK電鉄に払っていた。それが一昨年9月に地代の受領を拒否され、そのまま地代を支払うことなく放置していた。昨年6月にK電鉄は、建物占有移転禁止の仮処分を東京地裁に申請し、竹内さんの住宅と賃貸している倉庫部分が仮処分の執行を受けた。竹内さんはこの時点で組合に加入し、放置していた地代15ヶ月分を一括して供託したが、7月地代の不払いを理由に無催告で契約解除を通告され、土地の明渡し訴訟を提起された。裁判は組合の二人の弁護士が就いているので心配していない。今一番の痛手は、仮処分を受けたことで倉庫を貸していた会社がトラブルを恐れて倉庫の契約を解除して退去した。そのため倉庫の賃料収入が途切れてしまったことだ。仮処分は裁判の結果を見るまで殆ど継続され、取消は認められないのが通例だ。そのため仮処分の取消があるまでは、二度と倉庫を貸すことが出来ない。この不景気の時世にK電鉄の不法な仮処分による損害は多大だ。損害賠償をK電鉄に求めても、何年も先でなければ結果は出ない。




更新料を強要

悪質業者に都住宅局不動産
指導部から厳重注意で反撃

八王子市

 八王子市大和田町7丁目の木造瓦葺二階建てのアパートの一階に住む井上さんは、平成11年5月に入居した。1DK(24・16平方メートル)で家賃は月額3万5千円、共益費3千円を支払っている。ここは八王子駅から少し離れているが近くに都立小宮公園もあって環境が良く、家賃も比較的安いのが魅力だった。
 今年の3月初めに不動産業者から、契約更新の条件として更新料(家賃の1か月分)を請求された。また、送付された契約書も従前には書いてなかった「更新の際乙は甲に更新料として新賃料の1か月分支払う」特約や明渡しの際の原状回復特約など様々な条件がついていた。
 井上さんは、入居時の条件と違うので是正を求めたところ、不動産業者は突然怒り出し「おまえなんか出て行け!」、「おまえは日本人か!」「更新したければ頭を下げてこい!」などと、激しい剣幕で食ってかかってきた。井上さんは恐怖を感じ、紹介を受け組合に相談に行った。組合から早速、不動産業者に従前と同じ条件で更新することと、更新料は支払わない旨の通知を出した。しかし、業者が組合との話し合いも拒否したため井上さんは東京都住宅局不動産指導部に行って実情を話し「こんな悪質な業者が野放しにされることは絶対に許されない」との申請書を提出した。住宅局では直ちに業者を呼び出し厳重に注意した。その結果、都の担当者から「業者は深く恥じて反省している」との連絡が入った。




店舗移転で成果

板橋区

 板橋区志村で寿司店を営む岡本さんは、一昨年の九月に家主の代理人から明渡しを求められた。長びく不況の中で店舗移転に伴うあらたな支出など、到底出せるものではないと悩んでいた。店のお客で、借地借家人組合の組合員が、「明渡しの問題なら組合に相談するといいよ」と教えられ、組合に入会した。
 組合から、相手の不動産会社に「適正な立退き補償を条件に明渡しに応じる。窓口を組合にする」という通知を出した。途中一時移転、再入居という提案も出されたが、今年に入り、岡本さんのほぼ希望する金額(引越しの費用、次に入居する際にかかる保証金礼金などの費用、新しい店にかかる造作費用など)が、条件として提示された。後は条件に合う店舗探しで、現在地と百メートルと離れていない所に元寿司店の物件を見つけることが出来、この六月に無事引越し、開店した。




非訟手続で建

物を建替え中

大田区池上

 大田区池上4丁目の若林さんは、親の遺産借地約60坪を継承した。
 しかし、地主は「親に貸したのでお前に貸した覚えはない」と、相続を認めようとしない。しかも地主は不動産業者に依頼して土地の返還を求める始末だ。業者に諌められて等価交換の話になったが、地主は業者の説得も聞き入れず、7割、6割の取り分を主張するので業者は手を引き、協議は決裂した。
 若林さんが望んでいた家屋建替えの承諾も再三にわたり拒否し、地代は供託するに至った。昨年、建替えの非訟手続を取ったが、地主は一度も出廷せず、今年の4月に承諾料が確定した。そこで、支払のため地主に連絡しても応じず、若林さんと組合役員が直接地主を訪ねたが地主はドアも開けずに受領拒否。若林さんは直ちに供託し、建替え工事に着手した。




 ■判例紹介  

競売で建物を買受けた者に、その敷
地の賃借権は取得しないとした事例

 不動産競売手続で建物を買受けた者に対して、その敷地の賃借権を取得しないとして、建物の収去義務を認めた事例(最高裁第三小法廷・平成12・12・19判決。インターネット速報)

(事案)

 一、 Aは、Bから同人の所有する土地(本件土地)を含む宝町1丁目16番2の土地の一部及び同番14の土地を賃借していたが、Bの死亡によりその相続人Cと昭和49年5月23日、改めて賃貸借契約を締結した。

二、Aは、昭和51年5月頃、本件土地上に建物(本件建物)を建築することとし、前妻の子であるD名義で建築確認申請をし、同年11月に完成した。昭和52年2月28日、本件建物は、家屋補充台帳にDを所有者として登録された。以後、Aは本件建物に課税された固定資産税をDの名義で支払い、家屋台帳への登録を事後的に承認していた。

三、本件建物について、昭和62年4月17日Dを所有者とする所有権保存登記がされた。保存登記はDが、その所有権を証する書面として、建築請負人である工務店の建築工事完了引渡証明書、工事代金領収証、取締役会議事録とともに、固定資産税課税台帳登録事項証明書を提出して手続したもので、Aの知らないうちにされたものであるし、AはDが本件建物の登記名義を有することについては、これを黙示的にせよ承認したことはなかった。

四、Dは昭和62年10月、本件建物をAの五女の夫であるEに売買を原因とする所有権移転登記手続をした。

五、Eは、昭和62年10月26日本件建物につき、Fとの間で根抵当権設定契約を締結し、権利者をF、極度額を一千万円、債権の範囲を金銭消費貸借取引等とする根抵当権設定登記手続をした。Fは本件保存登記及びE名義の所有権移転登記を信頼したことにつき善意無過失であった。

六、Fは、前記根抵当権に基づき平成2年3月、東京地裁に本件建物の不動産競売の申立をし、不動産開始決定がなされた。乙(被上告人)は平成6年11月15日、右不動産競売申立事件において本件建物を買い受け、同月16日所有権移転登記手続をした。

七、甲(上告人)は、昭和53年5月にAと結婚した。Aは平成元年5月2日、甲に対し、本件土地の賃借権を含む財産を贈与した。

 右の事実関係をもとに甲は乙に対し、本件土地について有する賃借権に基づき、本件土地の所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使して、本件建物を収去、土地明渡等を求めていた事案。

(判旨)

「…建物について抵当権を設定した者がその敷地の賃借権を有しない場合には、右抵当権の効力が敷地の賃借権に及ぶと解する理由はなく、右建物の買受人は民法94条2項、110条の法意により建物の所有権を取得することとなるときでも、敷地の賃借権自体についても右の法意により保護されるなどの事情のない限り、建物の所有権とともに敷地の賃借権を取得するものではない…」

 (弁護士 田中 英雄)



「借地借家相談室」


借家の契約更新で更新料と更新手数料を請求されたが払う必要があるか

 2年間の建物賃貸借契約が8月31日で満了になる。先日、不動産業者から「契約更新のお知らせ」が届いた。契約の更新をする場合は、更新料21万2千円と更新手数料10万6千円と別途消費税が必要であると書かれていた。更新料・更新手数料を払わなければいけないのだろうか。尚契約書には更新料の支払に関することは記載されていない。現在家賃は10万円で管理費が月6千円。(葛飾区42歳男性)

(回答)まず、提示されている不動産業者の更新手数料の計算方法が間違っている。不動産業者の媒介・代理の際の報酬規定では、家賃を基礎にして計算することになっている。家賃に管理費を上乗せして、それに基づいて計算するのは「宅建業法」に違反している。それよりも悪質なのは、不動産業者が代理依頼者以外に報酬を要求していることだ。不動産業者が代理依頼者から受取る報酬の上限金額は家賃の1ヶ月分以内という規制がある。相談者の場合は、不動産業者に代理を依頼していないのであるから、依頼者に当たらないのは明瞭である。依頼者でない者から不当な代理手数料を一方的に要求するのは明らかに「宅建業法]に違反している。このように不動産業者に違法な更新手数料を要求されても賃借人には支払い義務はないので拒否すればいい。

 次に更新料の支払について更新料というものには何ら法的根拠がある訳ではない。法律上、賃貸人は更新料を請求する当然の権利がある訳ではなく、賃借人が更新料を支払う義務を一方的に課せられている訳ではない。裁判上も更新料支払の合意がない場合は、賃借人に更新料支払義務を認めた判例は見当たらない。したがって、賃貸人の更新料請求に応じる義務はない。

 相談者の賃貸借契約は、法定通知期間内に賃貸人から拒絶の通知がされていないので、法定更新されることが法律的に確定されている。契約書を作らなくても、賃貸借契約は従前の契約と同一条件で自動的に更新される。(詳しくは、5月号の当欄を参照)

 結論、賃貸人が更新を法的に覆すことができないので安心して相談者は、法的根拠の無い更新料及び不当な更新手数料の支払を毅然と拒否して下さい。


毎月1回15日発行一部200円/昭和50年5月21日第三種郵便物認可


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