定期借家契約終了後も賃貸人から 異議がない等の場合普通契約となる
定期建物賃貸借契約において黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものとされた事例。
裁判例では、賃貸期間が1年以上の定期建物賃貸借契約において、賃貸人が借地借家法38条4項の手続を懈怠し、賃貸期間が満了した後に終了通知をした場合でも、賃貸期間満了前の終了通知と同様に、賃貸人は、その通知をしてから6か月を経過した日をもって、定期建物賃貸借契約の終了を主張できると判断されています(東京地判平成21年3月19日)。
では、定期建物賃貸借契約の賃貸期間が満了後も、賃貸人から何らの通知ないし異議もないまま、賃借人が長期にわたって使用継続している場合においても、定期建物賃貸借契約の終了を主張できるのでしょうか。
東京地判平成29年11月22日は、借地借家法38条1項が民法619条に基づく新たな賃貸借契約の成立を排除していないことなどを述べ、「期間満了後も賃借人が建物の使用を継続し,賃貸人も異議なく賃料を受領しているような場合には,黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解すべきである」と判断しています。そして、賃貸人が、平成23年1月13日に定期建物賃貸借契約の終了を通知したものの、同通知送付後は,平成26年5月8日付通告書を賃借人に送付するまでの間,賃借人の建物使用に対し再契約の交渉を試みるにとどまり,使用継続に対する異議を述べず,賃料を受領し続けていたことを認定し,黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたとしました。
他方で、東京地判平成30年2月28日は、定期建物賃貸借契約の期間が平成24年4月30日までとされていたものの、その後も転貸人が転借人から賃料を受領し続けていた事案において、建物のテナントに対する平成25年5月28日付回答書に、原賃貸人と転借人との間で裁判中であることが指摘されており、転借人の使用収益に対して異議が述べられていることが窺えるとして、定期建物賃貸借契約の黙示の更新を否定しました。しかしながら、転借人の使用収益に対して異議を述べられていることが窺えるとすることの理由は明確には述べられておらず、判断が違った可能性もあったと思われます。
以上を踏まえますと、定期建物賃貸借契約であるとしても、期間満了後の事実関係を踏まえて新たな普通建物賃貸借契約成立の余地がないか、組合等にご相談いただくとよろしいかと存じます。
〈弁護士結城祐〉