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原状回復で賃借人の負担割合は経過年数が多いほど減少させるのが適当

 賃貸住宅の退去時における原状回復をめぐるトラブルが増加を続けています。判例のキーワードは「経年変化」と「通常損耗」です。

 【東京地方裁判所原状回復工事費用等請求事件(本訴)、費用償還等請求事件(反訴)の平成30年12月12日判決】
 判決は「民法の規定する賃借人の原状回復義務は、(1)付属物の収去義務と(2)賃貸目的物の毀損部分の補修義務(いわゆる通常損耗を超える損耗部分の補修義務)からなる義務である。」としています。この判決で重要なことは「毀損部分の補修義務」とは「通常損耗を超える損耗部分の補修義務」と定義していることです。

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月)
 このガイドラインは、賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブルの未然防止と解決のために作成をされました。判例の考えを整理していて参考になります。
 賃借人は「経年変化・通常損耗」の費用分は、賃料として支払ってきているのであり、賃借人が明け渡し時に負担すべき費用にならないはずです。このような分まで賃借人が明け渡しに際して負担しなければならないとすると、経年変化・通常損耗の分が賃貸借契約期間中と明け渡し時とで二重に評価されることになり、、賃貸人と賃借人間の費用負担の配分について合理性を欠くことになります。
 また、実質的にも、賃借人が経過年数1年で毀損させた場合と経過年数10年で毀損させた場合を比較すると、後者の場合は前者の場合よりも大きな経年変化・通常損耗があるはずであり、この場合に修繕費の負担が同じであるというのでは賃借人相互の公平をも欠くことになります。
 そこで、賃借人の負担については、建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させることとするのが適当です。また、次の入居者を確保する目的で行う設備の交換、化粧直しなどのリフォームについては、経年変化及び通常使用による損耗等の修繕であり、賃貸人が負担すべきです。

(弁護士 黒岩哲彦)