様々な判例紹介 top トップへ 前のページへ

借地の立退料の相場…東京地裁
平成25年3月14日判決を題材に

 借地契約は、期間満了となっても法定更新されるのが原則であり、地主がその更新を拒否するためには、更新拒絶の申出をしなければなりません。この更新拒絶の申出によって借地契約が終了するかどうかの判断基準となるのが「正当の事由」の有無であり、この「正当の事由」の有無の判断において重視されるのが立退料です。
 もっとも、借地人が朽廃していない建物を所有し自ら土地を使用しているケースでは、地主が如何に高額の立退料を提示したとしても、「正当の事由」が認められにくい傾向にあります。借地権価格以上の立退料を提示しているケースでも、「正当の事由」が認められなかった裁判例はいくつもあります。他方、借地人自らが使用していない(建物を使用していない)ケースや、借地人が法人で、建物を営利目的で使用しているケースなどでは、借地人の経済的被害を十分にフォローできる立退料が提示されることで「正当の事由」が認められる事例がいくつかあるようです。
 今回紹介する東京地方裁判所平成25年3月14日判決は、借地人が建物を所有し、その建物に知人を居住させている事案です。この事案では、借地人も建物の居住者も、本件建物から転居することが可能な事案でした。また、過去には建物の無断増改築等の信頼関係が必ずしも良好とはいえない事情もありました。そのため、裁判所は「(地主が借地人に対し)借地権価格及び移転費用等を基準として算定される立退料を支払うことにより、更新拒絶の正当事由が補完され、本件土地の明渡しを求めることができると解することが、当事者間の公平の見地から相当」と判断しました。その上で、借地の価格を、時価と推定公示価格の中間程度の金額である約5500万円と定めた上で「本件における正当事由の充足度、借地人が必要とする移転費用等諸般の事情を一切考慮すれば、本件における相当な立退料の金額は5000万円であると認めるのが相当である」と判断しました。
 本件は、立退料が借地権価格よりやや減額された事案ですが、信頼関係の問題等が過去になければ、上記裁判例で指摘するように「借地権価格」に「移転費用等」を加算して算定するのがスタンダードだったといえるのかもしれません。裁判例の中には、借地人が「借地権価格」より多くの金を受領しているケースも複数あります。借地契約における立退料の基準は、借地権価格(時価)+α(移転費用その他の経費等)が1つの目安になると思われます。 

(弁護士・西田穣)