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借地上建物が朽廃に近い状態であると譲渡許可の申立が棄却された

 東京高等裁判所平成五年一一月五日決定―借地上の建物が朽廃に近い状態として借地人の借地権譲渡許可申立てを棄却した事例・掲載判例タイムズ八四二号一九七頁以下
 (事案の概要)
 借地人が譲渡しようとした建物は築後五七年を経過し、契約期間は平成四年九月に期間満了した。借地人は平成三年横浜地方裁判所川崎支部に借地権譲渡許可申立。同支部は平成四年一〇月一三日に借地人の申立てを認め譲渡を許可する決定をした(原決定。なお原決定は公刊されているか不明)。相手方となった地主が東京高等裁判所に抗告。同裁判所は、原決定を取り消して、借地権譲渡の申立てを棄却する借地人逆転敗訴の決定をし確定した。
 (本件決定)
 本件決定は、建物の屋根・外壁トタン・基礎の状態から本件建物が現在は住居として利用することは不可能であり大規模な修繕が必要だが多額の経費をかけて修繕しても経済的に引き合わず、このまま推移すると一ないし三年以内に社会通念上建物としての効用を滅失する状態に至ると認められると認定し、さらに借地人がこのような朽廃が近い建物の修繕をしようとしても賃貸人がこれを許可しない可能性が高く、また裁判所が増改築を許可することが適当でない場合が多いから、このような建物及び借地権を譲り受けても、譲受人は譲り受けの目的である建物利用をすることができない、売買の目的が果たしえない状態で借地権譲渡を許可するのは制度の趣旨に合致しないと判断して、借地人の借地権譲渡許可申立てを棄却した。
 (解説)
 近頃、相続した借地上の建物があるが、相続人は居住利用しておらず、借地権をどうにか処分できないかという相談を組合関係で受けることが多くなってきました。借地権の処分というとき、地主に有償で返還するという道もありますが、借地権を第三者に売却処分するという道もあります。借地権譲渡は法律上、譲渡に対する地主の承諾がなければできません。では地主が承諾しないと言えばもう手段がないかというとそうではなく、法律(旧借地法・借地借家法)で、裁判所の許可を受けて借地権を第三者に譲渡する手続きが認められています。借地権処分の有力な一手段なのですが、朽廃まじかまで放置してしまうと許可が認められない場合があり得ますという注意喚起の事例として紹介しました。なにごとも早めに検討することが権利保全に必要です。

(弁護士 田見高秀)