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借上区民住宅の賃貸人による原賃貸借契約終了は転借人に対抗できない

 借上型区民住宅において、賃貸人が信義則上、原賃貸借契約の終了を転借人に対抗できないと判断した裁判例(東京地方裁判所平成28年2月22日判決)
 本件は、東京都特別区の借上型区民住宅を所有する原告ら(賃貸人)が、特別区の外郭団体(賃借人・転貸人)と各区民住宅の入居者ら(転借人)に対し、所有権に基づく返還請求として、原賃貸借契約の期間満了日における各室の明渡しを請求した事案である(なお、東借連弁護団員が被告ら代理人として関わった事案である)。
 本件の主な争点は、原告らが信義則上、原賃貸借契約の終了を被告らに対抗することができるか否かである。
 本判決は、上記争点について、事業用ビルのサブリースに関する判例(最高裁第一小法廷平成14年3月28日判決)など踏まえ、原告らが、被告外郭団体に各建物を第三者に転貸させることによって、自ら各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れるとともに、安定的に賃料収入を得ることを目的として原賃貸借契約を締結し、被告外郭団体が第三者に転貸することを原賃貸借契約締結の当初から承諾していたものであること、入居者らが、この目的の下に原賃貸借契約が締結され転貸の承諾がされることを前提として、転貸借契約を締結し、現に各居住部分に入居してこれを占有していることなどの事実関係があるため、原告らが、信義則上、各原賃貸借契約の終了をもって被告入居者らに対抗することはできないと判断した。
 最高裁は、賃貸人が賃借人(転貸人)との間の原賃貸借の終了をもって転借人に対抗できるかに関して、賃貸借の合意解除という当事者の恣意による終了は転借人に対抗できないが、賃貸人からの債務不履行解除など当事者の恣意によらない終了は対抗できると判断してきた。この点、判例は、期間満了による終了について、賃借人(転貸人)からの更新拒絶による賃貸借の終了のケースで、賃貸借がサブリースであるということを踏まえて、賃貸人と転借人との利益衡量をして、賃貸借の終了を転借人に対抗できないとしたが、本件は、賃貸人からの更新拒絶による賃貸借の終了のケースである点や賃借人の事業の目的が公的なものである点で異なるものの、上記判例と同様の結論をとったものである。

(弁護士・種田和敏)