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借地人の父と地主の間に更新料を支払うという黙示の合意を認めた事例

 今回は、更新料について、契約書に記載がないのに支払義務が認められてしまった判決を紹介します。

 本件は、借地人の父が、地主に対し、1973(昭和48)年及び1993(平成5年)の更新の際に更新料を支払っていましたが、土地賃貸借契約書には更新料のことは一切記載されていなかったという事案です。通常、2013(平成25)年の更新の際に更新料を支払う必要はありません、とアドバイスする事案なのですが、この判決は更新料の支払義務が認められてしまいました。
 借地人は、借地人の父を相続して借地人になった者でしたが、2013年の更新に際し、更新料の支払を拒絶しました。そうしたところ、地主は、借地人に対し、更新料の未払と無断増改築などを理由に更新を拒絶し、第一に建物を取り壊して土地を明け渡すよう求め、予備的に更新料の支払を求めて裁判を提起しました。
 本件の場合、増改築と評価できるほどの工事がなされていたわけではなかったため、争点はもっぱら更新料の支払義務にありましたが、裁判所は、更新料の支払がないことを理由とした更新拒絶は認められないとして、地主の建物取り壊し・土地明け渡し請求は退けました。
 しかし、更新料の支払義務については、借地人の父と地主の間に、更新料を支払うという「黙示の」合意があり、その支払義務を借地人が相続したとして、更新料を支払わなければならないという判断をしました。明確な証拠があるわけではないのですが、借地人は、法廷において、借地人自身は更新料を払うことを約束したことはないと明言しつつ、「父は払うつもりがあったかもしれない」という供述もしており、これが地主に有利に採用された可能性があります。
 この判決は、これまで更新料を支払う法律上の義務ではなく、契約書等において具体的に更新料の支払について記載のある事案でない限り、更新料を支払う必要はないとしてきた立場と矛盾するといわざるを得ません。この判決が、直ちに他の事例に影響を与えるとは考えにくいのですが、この判断の結論は、裁判官の一部に「更新料くらい払ったらどうか」という意識があることを示す一例といえます。更新料の請求に対し、慎重に対応する必要があることの警鐘事例として紹介します。

(弁護士 西田譲)