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相場による更新料の支払特約は法定更新の場合に支払義務は発生しない

 今回は、更新料を支払う必要がないとした結論自体は目新しいものではありませんが、葛飾の借地借家人組合の組合員の事件で完全勝利判決を得た事案であり、しかも、2011年7月15日の最高裁判決の後も、従前の判例を踏襲した結論であったという観点から、東京地方裁判所平成23年7月25日判決を紹介します。
 本件は、借地人が法定更新を主張して更新料の支払いを拒絶したところ、地主が、借地人を被告として、更新料不払いの債務不履行に基づく土地の賃貸借契約の解除を主張し、建物収去土地明渡しを求めてきた事案です。前回の更新の際に作成した賃貸借契約書には、特約条項として、手書きで「期間満了時に建物が存在するときは、当事者が協議のうえ更新することができる。契約が更新されたときは、賃借人は賃貸人に対して相場による更新料を支払わなければならない」との記載がありました。
 地主である原告は、第一に、更新が合意更新である旨主張した上で、仮に法定更新であったとしても、上記条項は法定更新の場合にも適用があるため、いずれにしても更新料の不払いは債務不履行に該当し、契約解除は有効と主張しました。
 これに対し、借地人である被告は、更新の合意などしたことはない、実際に契約書を新たに作成していないし、更新料を支払うという約束もしたことはない、と完全に否認した上で、契約書の更新料支払いの文言は、「当事者が協議のうえ更新する」場合、つまり合意更新の場合に更新料を支払うという内容であり、法定更新の場合はこれに該当しないなど主張して争いました。
 判決は、原告(地主)が、本件更新料支払条項において相場とされる更新料の具体的金額や具体的な合意の内容等を明らかにしていないことを理由として、合意更新の存在を否定しました。また、上記更新料の支払条項は、「合意更新、法定更新を問わず適用されることが一義的に明らかであるとはいえ」ないとし、むしろ上記文言は、合意更新の場合だけに適用されるのが自然であるとして、更新料を支払っていないことは債務不履行にあたらないとして、結論として地主である原告の請求を棄却しました。
 もともと更新料は、法律上支払義務のないものです。前記2011年7月15日の最高裁判所判決に従っても、賃貸借契約書の一義的かつ具体的に記載された更新料の支払条項がある場合のみ例外的に更新料支払義務が発生するというのが合理的な解釈です。本件の場合、賃貸借契約書に、特約条項として手書きで更新料に関する記載がありましたが、「相場」という言葉は更新料の内容を一義的かつ具体的に表しているとは言い難く、上記判断も、「相場」による更新料を「支払う」という文言だけでは、上記一義的かつ具体的な支払条項という要件を満たさなかったと判断したものと思われます。
 契約書の更新料のことが記載されていても、必ずしも支払義務が発生するわけではない例といえます。

(弁護士 西田穣)