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定期借家契約は賃借人に対し書面の交付の説明がない限り定期借家契約の効力は認められないとして原審(高裁)の判決が取り消された最高裁判決

 定期借家契約につき賃貸人から賃借人に対して借地借家法三八条二項所定の書面の交付があったとした原審(東京高裁)判決が取り消された事例(最高裁第二小法廷平成二二・七・一六・裁判所WEB掲載)

 賃貸人は、平成一五年一〇月二九日賃借人と定期賃貸借建物契約書で期間を同年一一月一六日から平成一八年三月三一日まで賃料を月額二〇万円とする契約を締結し、同月三一日定期建物賃貸借公正証書が作成された。賃貸人は期間満了後に本件は借地借家法三八条所定の定期建物賃貸借であり期間の満了により終了したと建物明渡し及び賃料相当損害金の支払を求め提訴。賃借人は法三八条二項所定の書面(「説明書面」)の交付及び説明がなく定期建物賃貸借に当たらないとして、本件建物につき賃借権を有することの確認を求め提訴。
 地裁、高裁とも賃借人敗訴。東京高裁は「公正証書に『賃貸人が賃借人に対し、本件賃貸借には契約の更新がなく、期間の満了によって終了することについて、あらかじめ、その旨記載した書面を交付して説明したことを相互に確認する』との条項があり、同証書末尾に『公証人役場において本件公正証書を作成し、賃貸人及び賃借人に閲覧させたところ、各自これを承認した』との記載があるので、本件につき説明書面の交付があったと推認するのが相当であり、本件賃貸借は借地借家法三八条所定の定期建物賃貸借であり期間満了により終了した」として、賃借人の請求を認容し、賃借人の控訴を棄却した。
 最高裁は、「賃貸人は、本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しく、それにもかかわらず、単に、本件公正証書に上記条項があり、賃借人においてその公正証書の内容を承認していることのみから、法三八条二項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている説明書面の交付があったと原審の認定は、経験則又は採証法則に反する」として、高裁判決を破棄し、審理を差し戻した。
 定期建物賃貸借契約が成立するのは、「賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に説明書面が交付されていなければならない」ことは、借地借家法三八条一項とは別に同条二項が説明書面の交付を要求していることから本来明白である。しかし、従来下級審の中には賃借人が契約書において定期建物賃貸借であり更新がないことを具体的に認識していた場合は契約書と別個独立の説明書面を要しないとするもの(東京地裁平成一九年一〇月二九日民事五〇部・判例タイムズ一二七五号二〇六頁)があった。
 今回の最高裁の判決は、賃貸人は契約書とは別個独立の説明書面を交付していない限り定期建物賃貸借契約の効力(更新がないこと)を主張できないことを改めて最高裁として明示した点で、このような緩やかな解釈を排斥した点で、実務上重要である。

(弁護士 田見高秀)