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小修繕は借家人が行うとの特約で家主に屋根等の修繕義務を認めた事例

 小修繕は借家人が自らの費用で行うとの特約がある場合に、屋根等の修繕義務を認めた事例(東京地裁平3・5・29判決、判例時報一四〇八号八九頁)
(事案)
 この事件は、築後約二四年を経た建物(居宅)の借家人が原告となり、家主に対し屋根、壁、雨戸など四箇所の修繕を求めたものである。これに対し家主は、借家人の要求する修繕は新築同様又は賃料の三年分の費用がかかり経済的に修繕不能であり、借家人の要求は権利の監用であると争った。
(判決の要旨)
 第一点、「特約」との関係。建物の部分的な小修繕は借家人が自らの費用を負担して行う旨の持約がある場合は、家主の修繕義務を負う部分と借家人が自己の費用をもって修繕すべき部分との調整が必要である。第二点、修繕義務の負担。小修繕に当るものの修繕について家主に修繕義務はないが、建物の改造、造作、模様替等建物の基本構造に影響すべき現状を変更する修繕部分は家主の負担すべき義務の範囲に属する。第三点、家主の修繕義務の程度。(1)築後相応の建物としての使用継読に支障が生じない程度でよい。新築同様の程度まで修繕すべき義務はない。(2)修繕に多額の費用を要するもののうち、現状のままでも借家人側の受ける損失が小さいものにあっては借家人において現状を甘受すべきであり、家主に修繕義務はない。(3)借家人側に原因のある部分についても家主には修繕義務はない。(4)本件においては、二階屋根のセメント瓦のずれないし割れの部分一階便所等の上のさしかけ鉄板葺屋根の部分南側外壁のひび割れ部分、雨樋の損傷破損部分、二階和室天井板の剥離・割れの部分など六箇所について、従前と同品質又は同程度の材料と交換したりして修繕する義務が家主にある。(5)右の家主の修繕は、少なく見積もっても賃料の数か月分を超える費用が必要だが、この程度では修理不能の域に達しているとは認められず、さらに、家主は本件建物新築以来修繕費も支出したことがないというのであるから、今回の支出がある程度の額となっても、それをもって賃料との均衡を欠くものということはできない(賃料との均衡を失するというのであれば、末だ建直しの時期が到来していない本件建物にあっては賃料の増額方法によって調整されるべきである)。
(短評)
 小修繕は借家人が行うとの特約がある場合、それを超える修繕は家主の義務であるが(民法六〇六条一項)、その限界は微妙な場合が多い。また、老朽化の程度によっては物理的にも修繕が不可能だったり、物理的には可能だが賃料に比してあまりにも多額の費用を要するときは経済的に修繕不能とされ、家主の修繕義務はそれだけ軽減又は免除される。事案毎に具体的に判断するほかないが、その一つの判断基準が比較的詳細に示された先例として、この判決の意義がある。

(弁護士 白石光征)

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